[fpr 58] JXE-4

南風原朝和

南風原です。

   *** JXE誌「検定」特集号論文の紹介(4) ***

Historical Origins of Statistical Testing Practices: The
  Treatment of Fisher Versus Neyman-Pearson Views in
  Textbooks.
  (by Carl J. Huberty, Journal of Experimental Education,
   1993, 61, 317-333.)

検定利用の現状をもたらしたものとして,統計的方法の教科書に着
目し,歴史的にどのような叙述がなされてきたかをレビューした論
文です。タイトルに示されているように,検定に対するフィッシャ
ー流のアプローチとネイマン・ピアソン流のアプローチのどちらに
重点をおいて紹介されてきたか,そしてそれは時代によってどう変
化したか,がレビューにおける中心的な視点になっています。

ただし,これら2つのアプローチについて詳しい解説がなされてい
るわけではなく,ごく簡単に,次のようなキーワードで特徴付けを
しているだけです。

  フィッシャー:仮説は帰無仮説のみ,“証拠の強さ”の指標と
         してのp値による有意性の検定
  ネイマンら:帰無仮説と対立仮説,あらかじめ固定したαの値,
         2種類の誤り,検定力

レビューの対象となったのは行動科学の領域での統計的方法の教科
書で,以下の3つの年代カテゴリーに属するものです。
(1)1950年以前のもの28種類
(2)1990年代のもの19種類
(3)20年〜40年間にわたって版を重ねたベストセラー5種類

もともとフィッシャーの研究が先行し,ネイマン・ピアソンがこれ
に続いたこと,またフィッシャーには学問分野を越えて広く読まれ
た著書があったのに対して,ネイマンらのは学術論文としてしか発
表されていないことから予想できることですが,初期の教科書はフ
ィッシャー流にp値を解釈するものが主流であったということです。

ネイマン・ピアソン流に2種類の誤りを解説した最初の教科書は
Lindquist (1940) ですが,ネイマン・ピアソンの名前を挙げ,彼ら
の理論に厳密に従おうとしたのは Johnson (1949) が最初だという
ことです。

その後,ネイマン・ピアソン流の考え方が徐々に教科書に取り上げ
られていくわけですが,たとえば,検定力について,その概念は説
明するけれども,実際の検定法の解説では検定力を無視した議論に
なっている等,取り扱いに一貫性がないものが多いと指摘していま
す。(いわゆるベストセラー群で,この点で最も一貫しているのは
Hays (1963-1988) だということです。)

また,αを固定しないでp値を評価していくというフィッシャー流
のアプローチは,最近はやや復権の兆しが見えるということです。
ちなみに,Huberty 自身もαを固定するやり方には反対なようです。

全体として,前回ご紹介した Shaver に比べて,検定に対して肯定
的な態度で書かれたレビューで,それがアブストラクトの中の次の
ような(どこから導かれたのか分からない唐突な感じのする)結論
にも表れています。

  It is concluded that it is not statistical testing itself
  that is at fault; rather, some of the textbook presenta-
  tion, teaching practices, and journal editorial reviewing
  may be questioned.

歴史的事実として興味深かったのは,フィッシャー以前にカール・
ピアソン(「ピアソンの相関係数」のピアソンで,ネイマンの共同
研究者のエゴン・ピアソンの父)が開発した適合度検定としてのカ
イ2乗検定に関することで,初期の教科書から大きく取り上げられ
てきたにもかかわらず,1940年代頃までは,なぜか検定法の1
つとしてみなされてなかったということです。「分布の当てはめ」
という具体的な作業の中で使われたこの検定では,「特定の理論的
分布が当てはまる」という,研究者にとってポジティブな状況が検
定の対象となる仮説であり,通常の帰無仮説とは違ってそれを採択
することが望まれている点が独特だったからかもしれません。

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