南風原です。 *** JXE誌「検定」特集号論文の紹介(5) *** Evaluating Results Using Corrected and Uncorrected Effect Size Estimates (by Patricia Snyder & Stephen Lawson, Journal of Experi- mental Education, 1993, 61, 334-349.) いわゆる「効果の大きさ」の指標に関するレビュー論文です。ここ では,Magnitude of Effect (ME) という名称でこれらの指標を総称 し,それを (1) Effect Size: 平均値差,標準化された平均値差など (2) Association Strength: 分散説明率(相関比,決定係数)など の2つのカテゴリーに分ける Maxwell & Delaney (1990) の分類法 を採用しています。 レビューの焦点は,このうちの (2) に属する指標にあり,とくにバ イアス修正の問題が取り上げられています。 母集団における分散説明率がゼロの時でも,標本での分散説明率は 通常ゼロにはならないことから分かるように,分散説明率の標本推 定値には正のバイアスがかかっています。このバイアスを修正する ために工夫された指標や,クロス・ヴァリデーション標本における 分散説明率を推定するための指標について,同一のデータに対する 値を比較するなどしています。 それから,検定結果を解釈する際の効果の大きさの指標の利用法と して,「標本で得られた指標の値を固定したとき,標本の大きさを どれだけ増やしたら有意になるか,あるいはどれだけ減らしたら有 意でなくなるか」を調べて報告することを勧めています。これは, この特集号の guest editor の Thompson が1988年に提案したこと のようで,Thompson 自身,この号の Foreword でこの手続きに触れ ており,これが Measurement and Evaluation in Counseling and Development 誌の“Guidelines for Authors”にも盛り込まれてい ると紹介しています。 これについて,Snyder & Lawson は,“this “what if" approach can provide researchers with useful insights regarding the effects of sample size on statistically significant, or non- significant, results that may not be entirely evident from p values alone”と述べています。 検定の結果のnへの依存ということを常に意識するためには有用か もしれませんが,研究論文の中に“あと5人とれば有意になるとこ ろだった”とか“これは被験者数を半分に減らしても有意であるよ うな,高度に有意な結果である”といった表現が続出することを想 像したら,私はちょっと耐えられないという感じです。 この論文の最後のほうには,効果の大きさの指標一般について,使 用上の注意を挙げています。要点は, (1) 指標の値は,要因(独立変数)の水準の選び方や被験者集団の 特徴などに依存するから,こうした study characteristics との関連で解釈すべきであること, (2) 指標の値が直接的に「実用的または臨床的な有意性」を表すの ではないこと, の2点かと思います。 -------------------------------------------- 南風原朝和 tomokazu (at) tansei.cc.u-tokyo.ac.jp 〒113 文京区本郷7-3-1 東京大学教育学部 TEL 03-5802-3350 FAX 03-3813-8807 --------------------------------------------
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