[fpr 60] JXE-6

南風原朝和

南風原です。

   *** JXE誌「検定」特集号論文の紹介(6) ***

Confidence Intervals and the Scientific Method: A Case for
  Holm on the Range
  (by Ronald C. Serlin, Journal of Experimental Education, 
  1993, 61, 350-360.)

母数がある特定の値に等しいという「点仮説」は,検定してみるま
でもなく,まず誤りと考えてよいということは,早くは1930年代か
ら言われてきました。それが,通常の検定は意味がないという主張
の強力な根拠の1つですが,こうした批判に対処する方法として考
えられたのが,Hodges & Lehmann (1954) の「区間仮説」の検定で
す。

ところで,点仮説の検定に対応して,母数の信頼区間があります。
たとえば母相関がある特定の値に等しいという仮説を5%水準の両
側検定で検定したとき,その仮説が棄却されないような“特定の値
”の集合が母相関の95%信頼区間となります。

前置きが長くなりましたが,この論文は,「区間仮説の検定に対応
する信頼区間」について主に述べたものです(他にもいろいろなこ
とを言っていて,どこに焦点があるのか分かりにくいのですが)。

相関係数を例にとれば,「母相関の絶対値はある特定の値より小さ
い」という区間仮説を5%水準で検定したとき,その仮説が棄却さ
れないような“特定の値”の集合が得られます。その集合は「
0.3以上」のような,片側だけに限界値があるような集合となり
ます。その限界値を用いて,たとえばいまの例であれば,「母相関
は0.3以上である」とするのが,区間仮説の検定に基づく母相関
の95%信頼区間だということです。

副題にある Range は区間仮説における区間のことです。また A 
Case for Holm とあるのは,平均値に関する多重比較という問題で,
区間仮説の検定に基づく信頼区間を得る方法として Holm (1979) の
方法が推奨できるということです。

一方,主題は「信頼区間と科学的方法」という大きなものになって
いますが,Serlin は「科学的方法」を以下の流れに従うものと考え
ています。
 (1) 理論に基づいて数量的な予測を立てる
 (2) その予測値に“good-enough belt”とよばれる許容範囲を付け
    ておく(その範囲の外側は,その理論にとっての“potential 
  falsifier”となる)
 (3) 母数の信頼区間がその範囲の中にすっぽり含まれれば,その理
   論にとってとりあえずは支持的な結果であると考える

なお,論文中に,“the standard confidence interval contains 
all of the information provided by the test of the point
null hypothesis and more”という文がありました。この意味の主
張は他の論文や解説書でも見られますが,検定の結果をp値を指標
として柔軟に表現する立場からすれば,特定の信頼係数をもつ(そ
の意味で固定的な)信頼区間では,検定結果が提供する情報のすべ
てを与えることはできないことになります。

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