[fpr 87] JXE-10

南風原朝和

南風原@東大教育心理です。

   *** JXE誌「検定」特集号論文の紹介(10=最終回) ***

The Role of Statistics in Research. (by William Asher, Journal of 
  Experimental Education, 1993, 61, 388-393.)

この特集を掲載した Journal of Experimental Education (JXE) 誌の Editor
の Asher のコメント論文が,この特集の締めくくりです。

統計教科書の内容の歴史的変遷について述べた Huberty (JXE-4) の論文に関し
ては,特に「測定理論」の取り扱いに注目し,初期の教科書ではかなりのペー
ジ数を占めていた「測定理論」が,近年,主として「分散分析」によって教科
書からはじき出された,と述べています。

研究の内的妥当性を考えるとき,検定などによって対処しようとしている統計
的安定性の他に,測定の問題が重要であり,その点からして,近年の統計教科
書における「測定理論」の軽視は問題であるということです。

検定に対して最も批判的な議論を展開した Shaver (JXE-3) の論文に対しては,
「自分の趣味から言えばちょっと過激である」と評しています。特に,「無作
為化を伴わない検定の結果は無意味である」という主張に対しては,

  We generally use sampling statistics in a subjunctive comparison

と述べています。つまり,我々の検定(などの標本理論の)利用は(仮に無作
為標本であったとしたら,というような)仮想上の比較に過ぎないから,実際
のデータ収集における無作為性についてはそれほど問題にしなくてよい,とい
う考えです。

もしそのように考えるとしたら,検定の前提条件をチェックすることの意味と
か,前提条件からの逸脱に対する頑健性の意義とか,検定力の意味とかも,実
際の無作為性を前提とした場合とはだいぶ変わってくると思いますが,その点
については何も言及していません。

以上。

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                                  南風原朝和  (はえばら ともかず)
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