南風原@東大教育心理です。 佐藤達哉さん@福島大学からの記事[fpr 119]に, > 先日、立教大の豊田先生と話したときに、知能検査の結果得点が正規分布するとい > うのは理論的には保証されない、ということを聞きました。確かに1つ1つの項目は > 「できる・できない」でしかないのだとしたら、結果としての知能検査得点も複合2 > 項分布(?)になるとかなんとか。正規分布ということではないとのこと。この辺に > ついても何かございましたらご教示ください。 というお尋ねがありました。 この問題については,項目反応理論に立脚すれば,次のように答えられます。 まず,2値(1−0)の項目得点の合計でテスト得点を定義するとき,テスト得点の分布 が複合2項分布となるというのは,被験者集団全体での分布ではなく,被験者の能力値を 固定したときの条件付き分布について言えることです。(このとき,能力値を固定すれば 各項目への反応が統計的に独立であるという「局所独立性」が仮定されます。) 次に,能力値自体の分布を考えると,これと上記のテスト得点の条件付き分布との積によ って,テスト得点と能力水準との2変量同時分布が得られます。 最後に,この同時分布から能力値を積分消去することで,テスト得点の(周辺)分布が得 られます。 こうして得られるテスト得点の分布がどのような形になるかは,能力値の分布の形,そし てテストの特性によって様々です。たとえば,当該の被験者集団に対する困難度が高すぎ る項目でテストを構成すれば,得点の低いところに度数が集中し,少数の被験者のみが高 い得点をとるような右に歪んだ分布になるはずです。もちろん,正規分布で近似できるよ うな分布になる可能性もありますが,そうなる保証は全くありません。 (ちなみに,多枝選択のようにデタラメでも正答できる項目からなるテストの場合,全被 験者が全項目にデタラメに回答すれば,かなり正規分布に近い分布が得られることが保証 されます。)
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