[fpr 121] はじめまして

豊田秀樹

豊田@立教社会

a096 (at) mail.ipc.fukushima-u.ac.jp (Tatsuya Sato) さんは書きました:
>佐藤達哉@福島大学行政社会学部ともうします。
>$B (at) hF|!"N)65Bg$NK-ED (at) h (at) 8$HOC$7$?$H$-$K!"CNG=8!::$N7k2LF (at) E@$, (at) 55,J,I[$9$k$H$$
>うのは理論的には保証されない、ということを聞きました。確かに1つ1つの項目は
>「できる・できない」でしかないのだとしたら、結果としての知能検査得点も複合2
>項分布(?)になるとかなんとか。正規分布ということではないとのこと。この辺に
>ついても何かございましたらご教示ください。

佐藤先生,お元気そうですね.豆腐チャンプルをつつき,オリオンビールを飲みながら
いろいろ議論した晩にそんな話しがでましたね.生来酒の弱い私ですが崩れいきそうな
意識を持ちこたえて,後半はかなり攻撃的に大きな声を出していた記憶があります.
もし失礼なことをいっていたとしたら許してください.

私もあれ以来ときどき考えていました.ただし知能検査の得点が正規分布するか否か,
ではなくて(この議論は明らかに決着しているので),どうして「知能は正規分布す
る」あるいは「知能検査の得点は正規分布しなくては正しい検査とはいえない」「得
点は正規分布すべきである」という神話が生まれるか,どうしてそう思う人が多いの
かという「心理学的?」な疑問でした.その結果,この現象を説明するための次のよ
うな4つの仮説を思い付きました.

1.ポリジーン仮説:同じ年齢の男性(あるいは女性)をたくさん集めて身長の
    分布を調べると非常に正規分布に近くなることが知られている.これはポリ
    ジーンという構成概念で説明されている.知能も同じであるとする考え方.
    行動遺伝学者や項目反応理論の使う人々がが潜在変数としての知能に正規分
    布を仮定する有力な根拠を与えている.
2.特性の分布と得点の分布の混同仮説:項目数を増やすと知能の分布と知能検
    査の得点分布は近似的に一致していく,という間違った強固な信念を持つこと.
    この信念を持っている人は意外と多い.特性の分布が同じでも,項目の統計的
    な性質を利用して,スクリーニングの検査には負に歪んだ得点分布を構成したり
    宇宙飛行士の選抜には正に歪んだ得点分布が望ましく,むしろ両者の違いを目
    的にあわせて逆に利用するようにしたい.
3.コンプレックス仮説:上記のような,あるいは南風原先生の説明のように
    両者は別物だという説明をしても,「学力や技能はそうでも知能検査は別です」.
    というキッパリとした返事をもらうこともある.これは知能は,心理学における
    ザ,スケール,オブ,スケールズで特別だいう不合理で冷静に対処できない感情を
    心理学者自身が持っている場合といえる.(佐藤先生のメールに南風原先生は
    知能という言葉を1度も使わずに,テスト得点という用語のみ使用してリプラ
    イしています)
4.接触(マインドコントロール)仮説:心理統計の授業では,平均値の差の検定,
    回帰分析,分散分析など,データが生成されるときの分布は,正規分布ばかり
    です.正規分布するぞ,正規分布するぞ,,,,と何度もなんどもいわれて
    いるうちに,データは正規分布によって生成されるという強固な信念が生じる
    のではないだろうか?

また,これらのことは重々承知で,標準得点からデータの位置が近似的にわかる正規
分布が便利なので,それを思考の経済として利用している場合もあるとおもいます.

追伸:当夜,「一般のテスト得点を表現する分布には複雑で名前はない.実際にはクシ
      の歯がかけたような分布になることもあるし(得点効果),同じ能力の人ばか
     り集めたような単純な状況でも複合2項分布という複雑な分布になるのだから
     一般の場合においてをや」といったように記憶しています.
     「じゃあどういうときに正規分布するの」という安藤先生の問いに
     「だれが来てもコインを12枚ふって,表の枚数を知能として記録するような
     妥当性がゼロの知能検査なら,計算機でしばしば採用される正規乱数程度の
     正確さで正規分布が観測できる」とも答えたはずです. 
     酒の席での話しを,「なるとかなんとか」という形で名指しで引用?するのは
     勘弁してくださいね(-_-;)

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Hideki TOYODA Ph.D., Associate Professor,      Department of Sociology
TEL +81-3-3985-2321 FAX +81-3-3985-2833, Rikkyo (St.Paul's) University
toyoda (at) rikkyo.ac.jp  3-34-1 Nishi-Ikebukuro Toshima-ku Tokyo 171 Japan                                  
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