[fpr 273] (No Subject in original)

山中伸一
奈良教育大学大学院の山中です。

先日よりご指導いただいておりましたアンケート分析の件ですが、
多少の修正を加え、次のようにまとめてみました。
このような少ないデータに対して数量化３類を用いたこと、また成分の解釈に当てた言葉のまずさなど、反省すべき材料は多々残されています。
が、皆様から頂戴しましたご指導の成果を一見いただきたいと思い、投稿致します。
今後ともご指導を宜しくお願いします。

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【研究テーマ】
　教師の算数・数学教育観の研究
    －算数教育の目標意識と指導重点項目の関係調査による考察－

○目的
　小学校教師がもつ算数・数学教育の目標意識と指導重点項目に焦点をあて、両者の関係を調査・分析することを目的とする。算数・数学教育の目標について、どのような点を重視し、また目標を決定するためにどのような教育観（成分）が働いているのかを明らかにしたい。さらに、目標を決定していた教育観（成分）は、産す・数学の学習内容（指導重点項目）に対してどのような関係をもっているのかを示してみたい。

○方法
　小学校教師に対してアンケート調査を行った。調査内容は
　　１）新しい学力観に基づく算数・数学教育の目標
　　２）計算指導を行う際の留意点（指導重点項目）
とした。１）では，目標の中でも特にどのような点を重視しているかをみた。２）では，小学校算数の大きな割合を占める領域「計算」に焦点をあて，指導上の留意点をみた。
　各項目は次のとおりである：
〈新しい学力観に基づく算数・数学教育の目標〉
１）算数・数学の目標をどのように考えていますか。大切と思われる項目を３つ選　んでください。
　　①数学的な見方や考え方を身につける
　　②自己実現のための基礎基本的な学力を身につける
　　③論理的な思考力や直観力を身につける
　　④情報処理や情報処理活用能力を身につける
　　⑤自らの行動を決定できる能力を身につける
　　⑥問題解決能力を身につける
　　⑦数学の美しさやよさがわかる
　　⑧算数・数学に対する興味や関心を養う
　　⑨算数・数学を生かそうとする態度を養う
。。。。ュェ、ス、ホツセ
〈計算指導を行う際の留意点（指導重点項目）〉
２）計算指導では，どのような点に最も留意されていますか。該当する項目を１つ　選んでください。
　　①計算力が一番大切なので，数学的な考え方よりも計算指導に十分時間をかけ　　　ている
　　②計算は数学の基礎であるから，数学的な見方や考え方と同様に時間をかけて　　　いる
　　③数学的な見方や考え方が大切であり，計算は将来電卓やコンピュータにまか　　　せばよいから計算練習は減らしている
。。。。ュ、、ス、ホツセ
　得られた結果は，大きく２つの方法で分析してみた：
【分析１】
　１）について，数量化３類を適用した。ここで，新しい学力観に基づく算数・数学教育の目標を形成する軸（成分）を抽出してみた。
【分析２】
　１）のサンプルスコアから２）による属性別平均を求め，算数・数学教育の目標を形成する軸と計算指導のとらえ方にどのような関係があるか見てみた。

○結果と考察
　アンケート調査は，大阪・奈良各府県の小学校教師（130名）に対して行った。採用データは，１）　２）　とも「その他」を選択したものを除いた121名分とした。
【分析１】
  １）より，半数以上の教師によって重要と捉えられた項目は，① ② ⑥であった（資料１）。よって，今日の算数教育では　数学的な考え方，基礎基本，問題解決　が目標となっている傾向が捉えられる。逆に，算数・数学のよさ，興味・関心　といった項目に対して反応が低かったことから，「算数教育の目標」と捉えた場合には，情意的側面が算数教育固有の目標とはなっていないことが指摘できよう。
　次に，資料１のように得られたデータに対して数量化を行った（結果：資料２）。全体的に固有値が小さいことから，項目間の相関が弱かったことが確認できる。よって，調査項目が考察の目的に対して十分焦点化されていなかったといえる。しかし，固有値のバランスがとれていること，３軸までで累積寄与率が５０％を越えていることから，一応の解釈をつけることは可能であると判断した。各成分について次の値が得られた。
　成分１は，
  正：
　　④　情報処理や情報処理活用能力を身につける
　　③　論理的な思考力や直観力を身につける
　　①　数学的な見方や考え方を身につける
  負：
　　②　自己実現のための基礎基本的な学力を身につける
　　⑨　算数・数学を生かそうとする態度を養う
と示している。このことから，正には「考える－創造する」に関する項目が，負には「使う」に関する項目が集まっている，と捉えられる。ゆえに，
   《 成分１：創造－活用弁別軸  》
と解釈する。
　成分２は，
  正：
　　⑦　数学の美しさやよさがわかる
　　⑨　算数・数学を生かそうとする態度を養う
  負：
　　⑥　問題解決能力を身につける
　　④　情報処理や情報処理活用能力を身につける
　　⑤　自らの行動を決定できる能力を身につける
と示している。このことから，正には「算数に対する情意」に関する項目が，負には「行動能力」に関する項目が集まっていると捉えられる。ゆえに，
　《　成分２：感情－行動弁別軸  》
と解釈する。
　成分３は，
  正：
　　④　情報処理や情報処理活用能力を身につける
　　⑨　算数・数学を生かそうとする態度を養う
　　⑥　問題解決能力を身につける
  負：
　　②　自己実現のための基礎基本的な学力を身につける
　　⑧　算数・数学に対する興味や関心を養う
　　⑤　自らの行動を決定できる能力を身につける
と示している。このことから，正には「他のものに依存して問題解決を行う」ことを暗示する項目が，負には「自らが自立して問題解決を行う」ことを暗示する項目が集まっていると捉えられる。ゆえに，
  《  成分３：依存－自立弁別軸  》
と解釈する。
　以上をまとめると，表２のように整理できる（表２）。
                  表２　算数教育の目標を形成する主な３成分
--------------------------------------------------------------------
          固有値  寄与率  　　＋          －          軸　　名
--------------------------------------------------------------------
  成分１  0.192   19.181     創る　   　使う      創造－活用弁別軸
  成分２  0.161   16.102    感じる      行う      感性－行動弁別軸
  成分３  0.149   14.872   依存する    自立する   依存－自立弁別軸
--------------------------------------------------------------------
【分析２】
　まず，２）のどのような項目を選択した教師が多かったかを見てみたい（表３）。サンプル数をみると，②を選択した教師が圧倒的に多いことが確認できる。よって，今日の算数指導では，数学的な考え方と計算の定着を両立しようとする傾向が見られる。これは　１）の結果と整合する，と捉えられよう。
　　次に，算数教育の目標を選択した成分との関係を見て  いきたい。１）の数量化を行ったときに算出されたサン　プルスコアから，２）の層性別平均を求めてみた（表３）。
                     表３　２）のサンプル数と層性別平均
--------------------------------------------------------------------------
        サンプル数   成分１     成分２    　成分３          　分類
--------------------------------------------------------------------------
    ュ。       6       -1.099     -0.225      -0.652     ウ靉ム。ンケヤニー。ンシォホゥキソ
。。  ュ「      98        0.037     -0.009       0.055     チマツ、。ンケヤニー。ンーヘツクキソ
。。  ュ」      18        0.174      0.132      -0.087     チマツ、。ンエカタュ。ンシォホゥキソ
--------------------------------------------------------------------------
  座標で表現してみた結果，２つの特徴を確認することができる。
  まず１つめには，どの座標に対しても①が突出していることがあげられる。これは他の２つに比べて目標を選　択した成分ではっきりと表すことができると考えられる。
　つまり，計算を第一と捉える教師は，道具をうまく使いこなし，自ら行動を行うことができる子どもに育てようとする教育観をもっている，と解釈することができる。
　よって，計算を重視する教師は「活用－行動－自立型教育観」が反映している，と捉えられる。
　それに対し，②③を選択した教師の教育観は，今回の分析からは明確につかめなかった。②③とも，軸に対して若干の傾向（反応）は示しているが，どの軸に対してもほぼ中央に位置していることから，①と同様に○○の教育観が十分反映している，とはいいがたい。特に，反応の大きかった②が座標のほぼ中央に位置している結果について，もう少し追求してみる必要があると考える。
  今回はこの結果に対して，次の２つの仮説を設けるまでにとどめた：
　　ア）今日の教師は算数教育の目標を構成する成分に対してバランスのよい状態　　　　にある
　　イ）教師には「新しい学力観」像と現実の間に迷いが生じている
　ア）については，どの成分における軸に対してもほぼ　中央に位置していることから，特に偏った教育観がある　わけでもなく，どういったことに対しても教育活動をまんべんなく行おうとしている，と解釈する場合である。この解釈の妥当性は，小学校教師のオールマイティー性からもいえるであろう。
　イ）については，教師自身が受けてきた教育を通して培ってきた教育観と新しい学力観に基づく教育像との間で対立が起こり迷っている教師が多い，と解釈する場合である。
　この仮説を実証するためには，今後教師に直接インタビューを行うなどの手だてが必要であろう。

【注および参考文献】
・ 高木廣文他，(1989)，『HALBAUによるデータ解析入門』，現代数学社
・ 渡部洋，(1988)，『心理・教育のための多変量解析入門　基礎編』，福村出版
・ 渡部洋，(1992)，『心理・教育のための多変量解析入門　事例編』，福村出版
・ 菅民郎，(1993)，『初心者がらくらく読める多変量解析の実践　上・下』，現代　数学社

《資料１》
【クロス集計表】 ( 1 / 2 )
--------------------------------------------------------------------------
   ケ猯ワ。ンィツ アュ  アュ  イュ  イュ  ウュ  ウュ  エュ  エュ  オュ  オュ --------------------------------------------------------------------------
 1)[16]1      
      1           68     0    27    41    29    39     9    59     1    67
      2            0    53    37    16    18    35     6    47     6    47
 2)[16]2      
      1           27    37    64     0    19    45     2    62     4    60
      2           41    16     0    57    28    29    13    44     3    54
 3)[16]3      
      1           29    18    19    28    47     0     5    42     2    45
      2           39    35    45    29     0    74    10    64     5    69
 4)[16]4      
      1            9     6     2    13     5    10    15     0     1    14
      2           59    47    62    44    42    64     0   106     6   100
 5)[16]5      
      1            1     6     4     3     2     5     1     6     7     0
      2           67    47    60    54    45    69    14   100     0   114
 6)[16]6      
      1           26    36    28    34    17    45     9    53     4    58
      2           42    17    36    23    30    29     6    53     3    56
 7)[16]7      
      1            5     3     4     4     3     5     0     8     0     8
      2           63    50    60    53    44    69    15    98     7   106
 8)[16]8      
      1           14    19    14    19    10    23     3    30     2    31
      2           54    34    50    38    37    51    12    76     5    83
 9)[16]9      
      1           26    27    30    23     9    44     2    51     0    53
      2           42    26    34    34    38    30    13    55     7    61
--------------------------------------------------------------------------

【クロス集計表】 ( 2 / 2 )
--------------------------------------------------------------
   ケ猯ワ。ンィツ カュ  カュ  キュ  キュ  クュ  クュ  ケュ  ケュ --------------------------------------------------------------
 1)[16]1      
      1           26    42     5    63    14    54    26    42
      2           36    17     3    50    19    34    27    26
 2)[16]2      
      1           28    36     4    60    14    50    30    34
      2           34    23     4    53    19    38    23    34
 3)[16]3      
      1           17    30     3    44    10    37     9    38
      2           45    29     5    69    23    51    44    30
 4)[16]4      
      1            9     6     0    15     3    12     2    13
      2           53    53     8    98    30    76    51    55
 5)[16]5      
      1            4     3     0     7     2     5     0     7
      2           58    56     8   106    31    83    53    61
 6)[16]6      
      1           62     0     2    60    11    51    27    35
      2            0    59     6    53    22    37    26    33
 7)[16]7      
      1            2     6     8     0     1     7     3     5
      2           60    53     0   113    32    81    50    63
 8)[16]8      
      1           11    22     1    32    33     0     9    24
      2           51    37     7    81     0    88    44    44
 9)[16]9      
      1           27    26     3    50     9    44    53     0
      2           35    33     5    63    24    44     0    68
--------------------------------------------------------------

《資料２》
【数量化理論３類・双対尺度法：重み係数［ 横変数／項目］】
------------------------------------------------------------
   項目－カテゴリ    成分 1  成分 2  成分 3  成分 4  成分 5 
------------------------------------------------------------
 1)[16]1           
      1               1.130   0.964   0.852   0.202  -0.225 
      2              -1.450  -1.237  -1.094  -0.259   0.289 
 2)[16]2           
      1              -1.228   0.610  -1.089  -0.744  -0.535 
      2               1.379  -0.685   1.223   0.835   0.600 
 3)[16]3           
      1               1.846   0.402  -0.745  -1.429  -1.246 
      2              -1.173  -0.255   0.473   0.908   0.791 
 4)[16]4           
      1               2.265  -3.364   2.385   0.775   1.214 
      2              -0.321   0.476  -0.337  -0.110  -0.172 
 5)[16]5           
      1              -0.391  -4.942  -4.600  -3.458   1.930 
      2               0.024   0.303   0.282   0.212  -0.118 
 6)[16]6           
      1              -0.725  -1.488   1.087  -0.600   0.115 
      2               0.762   1.563  -1.142   0.630  -0.121 
 7)[16]7           
      1               0.538   3.748  -0.324  -2.700   9.928 
      2              -0.038  -0.265   0.023   0.191  -0.703 
 8)[16]8           
      1               0.419  -0.591  -2.258   3.628   0.633 
      2              -0.157   0.221   0.847  -1.361  -0.238 
 9)[16]9           
      1              -1.653   0.971   1.198   0.697  -0.246 
      2               1.288  -0.757  -0.934  -0.543   0.192 
------------------------------------------------------------
固有値                0.192   0.161   0.149   0.123   0.106 
寄与率               19.181  16.102  14.872  12.278  10.635 
累積寄与率           19.181  35.284  50.156  62.434  73.068 
カイ２乗値          217.006 178.910 164.076 133.486 114.574 
（自由度）          (  136) (  134) (  132) (  130) (  128) 
有意確率            0.00001 0.00578 0.03047 0.39915 0.79626 
------------------------------------------------------------

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  奈良教育大学大学院数学教育専修
      山　中　　伸　一
    e-mail:z958402 (at) nara-edu.ac.jp
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