[fpr 544] 議論のきっかけ

豊田秀樹

豊田@立教社会です

"Y.Hasegawa/長谷川芳典" <hasegawa (at) cc.okayama-u.ac.jp> さんは書きました:
>長谷川@岡山大です。
>豊田さん:申込みの時に400字程度の内容を書かないといけませんの
>で、たたき台をお願いします。

以下のような拙文を作りました.
*************************************
1990年代に入ると我が国の調査研究の解析方法に共分散構造分析が頻繁に使用されはじ
めた.現在のところ,発表される論文には誤用や拡大解釈がほとんど見られず,新しい
手法の導入初期に見られる特有の混乱も無い.共分散構造分析をデータ解析・モデル構
築のツールとして比較的無理なく受け入れつつある.しかし,今後,共分散構造モデル
の適用が更に増加するにしたがって「統制されないデータを分析したときに,共分散構
造モデルで因果関係を扱えるのであろうか.逆方向の因果関係や第3の変数の影響をど
う扱うのか」「研究者が想定している因果モデルと矛盾しない現象が存在していること
が示されるの過ぎないのではないか」等の疑問が生じてくるはずである.本ラウンドテ
ーブルでは,本格的な普及の予感を前に,質問紙調査と実験的研究の相違を鍵概念とし
て「共分散構造分析による因果モデルとは何か」を確認する.
*************************************

>今後fprにて、このテーマについてのディスカッションが活発に行わ
>れますことを期待いたします。

ということで,議論のたたき台となる1つの文章を以下に掲載します.WSで提供する話
題はこの内容とは当然異なりますが,議論のきっかけとなれば幸いです.実は,この論
文は教育心理学年報掲載予定(本年4月)の展望の一部です.このため著作権は既に教育
心理学会に帰属しています.欧米諸国の慣例に従い,メールを利用して個人的に皆
様にご報告いたします.テフ文書ですが,式がないので文字の部分だけで内容は十
分に伝わると思います.共分散構造モデルに関係のない部分は削除されており
引用文献に引かれていない文献は「教育心理学研究」誌の論文です.

松井さんに,1つお願いがあります.以下の文章には4つの図表があり,

http://150.93.32.200/socio/bld2_1/toyoda/gif/FIG1.gif
http://150.93.32.200/socio/bld2_1/toyoda/gif/FIG2.gif
http://150.93.32.200/socio/bld2_1/toyoda/gif/FIG3.gif
http://150.93.32.200/socio/bld2_1/toyoda/gif/FIG4.gif

に置いてあるのですが,このサーバーは1月いっぱいで撤去されてしまい,2月
からは,アクセスできなくなり,FPRのメンバーが読めなくなります(今は
ネットスケープ等のブラウザでだれでも読めます).お忙しいところ申し訳あ
りませんが上記の4枚の図表を2月以降も読めるように,どこかに置いていただ
けないでしょうか.

\documentstyle[a4j]{jarticle}
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%\setlength{\oddsidemargin}{-10mm}
%\setlength{\evensidemargin}{-10mm}
%\pagestyle{plain}
\title{測定・評価と共分散構造モデル}
\author{立教大学社会学部 豊田秀樹\\
Department of Sociology, Rikkyo (St.Paul's) University, Hideki Toyoda}
\date{}
\begin{document}
%\setlength{\baselineskip}{10mm}

\maketitle

\section{はじめに}
本稿では執筆者が関心をもつテーマとして,まず教育心理学研究における共分散構造モ
デルの構築の問題を論じる.続いて「教育心理学研究」誌に発表された論文の中から,
測定・評価研究を紹介・論評しながら討論を進め,公刊図書・書籍を取り上げて内容を
紹介する.論評の対象となる論文・図書は,原則として1995年7月から1996年6月の間(
この期間を本(今)年度と呼ぶ)に公刊されたものとする.

\section{教育心理学研究における共分散構造モデル}
1990年代に入ると我が国の調査研究の解析方法に共分散構造分析(Bollen,1989)が頻繁
に使用されはじめた.利用されているのは主として経験社会学・行動計量学・産業心理
学等の研究領域である.「教育心理学研究」誌に限っても,豊田・前田・室山・柳井(19
91),鈴木・柳井(1993),山崎(1994),塩谷(1995),下山(1995),土肥(1996),安藤(199
6)などで共分散構造分析はデータ解析・モデル構築のツールとして使用されている.こ
れらの論文では誤用や拡大解釈がほとんど見られず,新しい手法の導入初期に見られる
特有の混乱も無い.我が国の教育心理学は共分散構造分析をデータ解析・モデル構築の
ツールとして比較的無理なく受け入れつつある.

この統計モデルが普及した最大の原因は計算機のハードウェアとソフトウェアの長足の
進歩にある.たとえば観測変数の数が30,構成概念の数が5つ程のモデルの解を1990
年当時のパソコンで計算すると優に数十分を要したが,現在では同じモデルの解が数秒
から数十秒で求まってしまう.5年前にはある程度まとまった時間がなければモデルの
改良ができなかったのに,現在では細切れの時間を集めてモデルの改良ができるように
なった.ソフトウェアもウインドウズのGUIを取り入れて日進月歩で使い易くなって
いる.現在ではユーザーに線形代数の知識をほとんど要求しないソフトウェアが主流で
ある.またJAP(Journal of Applied Psychology)やJEP(Journal of Educational  Psych
ology)やJPSP(Journal of Personality and Social Psychology)に分析例として参照で
きる適当な論文が比較的多数掲載されており,そのことが教育心理学における共分散構
造モデルの使用を促している.1987年から1994年までの間に,JAP,JEP,JPSPでは,そ
れぞれ 45, 39, 20 の論文で共分散構造分析による因果モデルが発表されている(Trembl
ay and Gardner, 1996).


\subsection{パス解析との対比}
目的と見た目が共分散構造分析と類似している方法に,重回帰分析を内生的観測変数の
数だけ繰り返して有意な係数をパス図に書き込むパス解析(以下「重回帰によるパス解
析」と呼ぶ)がある.本年度の「教育心理学研究」誌でも,尾形(1995),田中・中澤・
中澤(1996),高橋(1996),谷島・新井(1996),浦上(1996)で使用されている.

評者は,共分散構造分析と重回帰によるパス解析の違いは何かと尋ねられる機会が最近
多いので,この場を借りて考察を行いたい.両者の相違点としては,たとえば重回帰に
よるパス解析は,\\
1.正確な推定値が報告されないことが多い,\\
2.モデルとデータの適合を吟味できない,\\
3.分析者の仮説を表現する自由がきわめて少ない,\\
という点で共分散構造分析に劣っていることが挙げられる.ここでは1つの例として浦
上(1996)のモデルを例にとり,共分散構造分析によるモデル構成と重回帰によるパス解
析との相違を比較してみよう.以下では浦上(1996)の分析方法について結果として辛口
の批評をしてしまう.しかし浦上(1996)のデータを例に引いた理由は,上記5つの論文
の中で再分析ができるだけの完全な情報が載っていたのが当該論文だけであったためで
ある.内容的には,就職難の時勢下,浦上(1996)論文を非常に興味深く拝読した.

浦上(1996)は,女子短大生の職業選択過程をバンデュラの自己効力理論に基づき,自己
効力・就職活動・自己概念の観点から分析している.因果モデルは,進路選択に対する
自己効力(以下「自己効力」と略記)が就職活動の程度に影響し,就職活動の程度が一
般的自己概念(以下「自己概念」と略記)を経由して職業的自己概念(以下「職業概念
」と略記)を形成するというモデルである.ただし就職活動の程度を表す項目群は,因
子分析の結果,自己と職業の理解・統合活動(以下「自己職業」と略記)と就職活動の
計画・実行行動(以下「就職活動」と略記)という2つの下位尺度に分けられた.調査
対象は幼児教育学科と教養学科に在籍する女子短大生であり,別々に分析されている.

\subsubsection{モデル1(パス解析)}
浦上(1996)のFIGURE 3で示されたパス解析モデルそのものをを共分散構造分析のソフ
トウェアEQSで分析し,最尤推定値を書き込んだパス図を
FIGURE 1\marginpar{FIGURE 1}に示す.浦上(1996)のFIGURE 3と比較すると一部の推定
値の値が一致していないこと
が確認できる.「重回帰によるパス解析は正確な推定値が(最小2乗値も最尤推定値も
)報告されないことが多い」ことの1つの例である.

TABLE 1\marginpar{TABLE 1}にはEQSで分析したモデルの全体的な評価の指標を幾つ
か掲載している.本稿では多(2)母集団の分析モデルを使用しているので,幼児教育学
科と教養学科を合わせた2種類のパス図から1つの指標が計算される.浦上(1996)のモ
デル全体では,$n=150$, $\chi^{2}=30.96$, $df=8$, $p<0.001$, $AIC=14.96$であ
り,標本数が少ないのに適合は良くない.これはデータとモデルが適合していないのに
プレゼンテーションされてしまう1つの例である.重回帰分析はモデルの自由度が常
に0となり「分析者が引いたパス図がデータに適合しているのか否かを吟味できない」
ためである.

\subsubsection{モデル2(測定誤差の導入)}
モデルとデータの適合度を改善するために,主としてモデルの原因変数として利用され
ている変数に測定誤差を導入する.重回帰モデルにおける原因変数の測定誤差を変数内
誤差という.重回帰によるパス解析では,変数内誤差モデルを解くことは困難である
が,共分散構造分析ではそれが比較的容易である.幸いなことに「自己効力」,「自己
職業」,「就職活動」は$\alpha$係数による信頼性係数の推定値が報告されているので
固定母数を利用(豊田・前田・柳井,1992,p199)してモデルに測定誤差を導入する.
FIGURE 2\marginpar{FIGURE 2}で示されたモデルの適合度は$\chi^{2}=27.28$, $df=8$,
 $p<0.001$, $AIC=11.28$であり,モデルの前半部の変数に仮定した測定誤差は適切で
あったといえる.ただしモデル2はモデル1と比較して改善はされているものの,依然
としてデータとの適合は良くない.

\subsubsection{モデル3(誤差相関の導入)}
「自己職業」と「就職活動」は本来は1つの項目群であった.それならば因子分析よっ
て再構成された2つの変数が「自己効力」という単一の変数から説明を受け,残った誤
差が無相関であるという仮定はデータに対して強過ぎるかもしれない.
FIGURE 3\marginpar{FIGURE 3}には誤差間の共分散を自由母数に指定したモデルの解(
標準化解と相関係数)を示した.カイ2乗値は$\chi^{2}=3.01$, $df=6$と一気に下が
り, $p=0.808$, $AIC=-8.99$とモデルは大幅に改善されている.この時点で職業選択
過程モデルはプレゼンテーションに耐えうるレベルに達したといえる.

\subsubsection{モデル4(理論優先のパス)}
統計的には適合度は十分であるが,モデル3は職業選択のモデルとしてはスマートでは
ない.何故ならば「自己効力」から「職業概念」に負のパスが引かれている.これは浦
上の理論にも常識にも合わない.理論に合わないのに有意になってしまった絶対値の小
さい係数は第1種の誤りではないかと疑ってみることが重要である.個々のパスの検定
は,パス図全体では多重比較もせずにたくさん行われているから,1つや2つは第1種
の誤りが生じて理論に合わなくなる方が自然である.むしろ理論通りの結果が出過ぎる
方が(メンデルのエンドウ豆のデータのように)データの改竄が疑われるくらいであ
る.教育心理学の研究で優れた共分散構造モデルを構築するための最も大切なコツは
教育心理学の知見を大切にすることである.

具体的には,幼児教育科の「自己効力」から「職業概念」の係数,「自己職業」から「
職業概念」の係数を0に固定したところ,適合度は当然のことながら$\chi^{2}=6.62$, 
$df=8$, $p=0.578$のように下がったけれども,$AIC=-9.38$となり情報量規準の観点か
らはモデルは改善されたと判断できる.「理論に合わない有意なパスを第1種の誤りか
もしれないと疑う」態度は,1歩間違えると独善的なデータ解析になってしまうが,情
報量基準その他の指標を参照することによってその「疑い」が妥当であったか否かの判
断ができる.ここでは改善が見られたが,改善が見られなければ,「理論はデータによ
って支持されなかった」と判断しなくてはならない.

\subsubsection{モデル5(制約母数の導入)}
幼児教育科と教養学科のパス図の相違に関して,浦上(1996,p202)は「幼児教育科を志
望し,在籍しているということは(中略)就職先が限定されていることを学生自身が認
識し,(中略)そのため就職活動を通し,再度自己や職業について考え直すことがおこ
りにくいのではなかろうか」と述べている.そこで「自己職業」と「就職活動」とは直
接関係のない「自己概念」から「職業概念」への基準化前の係数は両学科で等しいとい
う制約を入れた解をFIGURE 4\marginpar{FIGURE 4}に示した.$AIC$は$-11.35$とモデ
ル4と比較して更に改善されている.


尾形(1995),田中・中澤・中澤(1996),高橋(1996),谷島・新井(1996)の重回帰による
パス解析に関しても,相関行列か共分散行列が掲載されていれば,同様のモデルの改良
を展開することが可能である.しかし改良の過程は,各専門領域の実質科学的な知見に
大きく依存するので,それぞれに異なる.議論をオープンにするためにも観測変数の数
が20以下の場合は,論文中に,是非,相関行列か共分散行列を掲載していただきた
い.重回帰によるパス解析は手軽であるということ以外には取りたてて利点は無いの
で,共分散構造分析のソフトウェアが現在よりも更に使い易くなれば,回帰によるパス
解析は将来的には吸収・併合され消滅するかもしれない.

\subsection{パス係数の解釈をめぐって}

パス解析では偏回帰係数が有意であるとき,その独立変数は従属変数の原因の一部と解
釈されるようだが,単相関が有意である場合にも同様な解釈をする場合がある.「教育
心理学研究」誌に掲載された論文で使用された表現を調べると,予測変数が複数ある重
回帰分析で1つの偏回帰係数が有意であった場合には「aという変数がbという変数を
説明してる」「関連が認められた」「有意であった」「影響する」等の表現が使用され
ることが多い.一方,単相関が有意であった場合には「関連が認められた」「有意であ
った」「相関関係にあった」等の表現が使用されることが多い.

「結果」の次に「考察」が述べられるので上記の表現のみから即断することはできない
けれども,偏回帰係数が有意であることの意味と単相関が有意であるということの意味
の違いを明確に意識して書き分けている論文は少い.明らかに単一の予測変数と基準変
数の2者のみの関係として偏回帰係数を解釈している記述も散見される.

単相関を計算したり,重回帰分析を行った場合には,意識的に
\begin{itemize}
\item 偏回帰係数(直接効果):想定した(複数の)重回帰モデルで,関心の対象とな
っている2つの変数以外の変数の値を固定した状況下で,予測変数の値を1単位上昇さ
せたときの基準変数の変化の期待値,
\item 総合効果:想定した(複数の)重回帰モデルで,関心の対象となっている予測変
数以外の外生変数の値を固定した状況下で,予測変数の値を1単位上昇させたときの基
準変数の変化の期待値,
\item 単相関:標準偏差を単位として,1方の変数を1単位上昇させたときの他方の変
数の変化の期待値,
\end{itemize}
と解釈し分けると混乱は生じなくなる.ただし(上記の区別をしても)パス係数は常に解
釈可能であるとは限らない.何故ならば注目している一つの偏回帰係数が解釈可能であ
るのは,「単一の重回帰式中の他の予測変数が一定である」という状況が実質科学的に
(教育心理学的に)意味のある場合に限定されるためである.

重回帰式に変数を1つ加えたり減らしたりすると他の偏回帰係数の値が大きく変化する
ことがある.しかし,これを以って偏回帰係数は不安定であるとの印象を持ってはいけ
ない.値が変化するのは,変数を加えたり減らしたりするごとに,偏回帰係数の解釈的
意味そのものがそれぞれに変化しているためである.多くの心理特性は互いに関連しあ
うのが普通であるから,予測変数は互いに相関を持っていることが多い.このため1つ
の重回帰式にたくさんの予測変数がある場合には,関心の対象となっている2つの変数
以外の変数の値を固定した状況下での偏回帰係数の心理学的な解釈を行うことはほとん
ど不可能である.1つの基準変数に対する予測変数の数は少ない方が望ましい.1つの
目安として評者は予測変数を2つまでに押さえることを提案する.予測変数が2つの場
合には,
\begin{enumerate}
\item 他方の予測変数が一定である状況を比較的想定しやすい,
\item 数理的にも基準変数を含めて3本のベクトルの関係を空間的に把握することがで
き,直感的な理解が及ぶ,
\item 多重共線,調整変数,抑制変数など注意して解釈しなければならない状態の研究
が進んでいる,
\end{enumerate}
など係数を適切に解釈できる可能性が高い.

\subsection{因子分析を用いた研究}

探索的因子分析を主として利用した論文は本年度に15件発表されている.その中でプ
ロマックス解を利用した斜交解は平・川本・慎・中村(1995),上淵(1995),笠井・村松
・保坂・三浦(1995),落合・佐藤・岡本・国本(1995),落合・佐藤(1996a,b)の6つの
論文で使用されている.斜交解が安定したツールとして利用されるようになったこと
が,因子分析を用いた研究の本年度の際立った特徴である.

斜交解は直交解と比較して因子パタンのコントラストが強く因子負荷行列の解釈がしや
すい.また因子間相関の情報を利用して因子的妥当性の観点から因子数を決定したり,
採用した解の考察を進めることができる.因子間相関が0に近い場合は直交解とほとん
ど同じ解になるが(笠井他,1995),その場合でも上淵(1995)のように「因子間相関を0に
固定しなくとも0に近く推定されている」ということを積極的に示すために斜交解を用
いた方が良い.研究ツールとしてのバリマックス解が与える情報は,プロマックス解が
与える情報と比較して見るべき長所はないから,本年度に生じた変化の傾向は今後更に
加速していくことが予想される.

探索的因子分析は変数を分類し,下位尺度(観測変数群)を構成するために利用される
ことが多く,分析結果は主として
\begin{enumerate}
\item 下位尺度間の相関分析(天貝,1995,立林・田中,1996),
\item 属性別の下位尺度の平均値の比較(岡田,1995, 秋田・無藤, 1996, 前田, 1995,
 一二三, 1995),
\item 群別の因子比較(成田・下仲・中里・河合・佐藤・長田, 1995)
\end{enumerate}
などに利用されている.それぞれ「潜在変数を伴う構造方程式モデル」「期待値の構造
化モデル」「多母集団の同時分析モデル」という洗練されたモデルに発展させて行くこ
とが可能である.

\section{教育心理学研究誌における主な進展}

安藤(1996)は,遺伝的な要因が教授・学習過程に及ぼす効果を人間行動遺伝学的な立場
から双生児統制法を用いて検討している.どちらかというと安藤(1996)は遺伝の影響を
確認すること,あるいはメカニズムを解明することに研究の重点を置いている.しかし
この方向で研究を進めると,集団差こそ強調されないけれども,最終的には「氏」の重
要性を強調することにつながる.評者としては「『どうせうちの家系では』に代表され
る素朴な直感(相関)が見積もる遺伝的影響よりも,目的に応じて上手に特性を選べば
,本当の遺伝的規定力はずっと少ない」という人々を勇気付ける知見を,教育の可能性
を拡大する明るい見通しを,特性値を選ぶための具体的な示唆を,洗練された最新の行
動遺伝学の方法を駆使して示して欲しい.またそれは行動遺伝学のパラダイムでしか示
せない知見である.

近年,行動遺伝学の研究分野は,海外において方法論の発展とデ−タの蓄積が著しい分
野である.しかし,我が国ではジェンセンの論文が引き起こした差別的な知見から心理
学者自身が深刻なトラウマを受け,遺伝とか双生児法にコンプレックスを感じて冷静に
近づけなくなっている.「遺伝」という言葉を聞いただけで,冷静さを失ってしまう心
理学者はとても多い.1度けがをしたので2度とナイフには触りたくないという頑さす
ら感じられる.しかしナイフも行動遺伝学の方法論も所詮道具である.冷静に扱う理性
を持ちたい.安藤氏には,そんな日本の心理学者のコンプレックスを吹き飛ばしてくれ
るような研究を今後も期待したい.

以下省略

\section{引用文献}

\begin{description}

\item[] Bollen, K.A. 1989 
Structural equations with latent variables. 
New York: Wiley.

\item[] Tremblay, P.F., and Gardner, R.C. 1996
On the growth of structural equation modeling in psychological journals.
Structural Equation Modeling, 3, 93-104.

\end{description}

%\newpage
\begin{table}[t]
\caption{各モデルの統計量}
\begin{center}
\begin{tabular}{crrrr}
\hline
 &$\chi^{2}$値&自由度&限界水準&AIC\\
\hline
モデル1&30.96&8&<0.001&14.96\\
モデル2&27.28&8&<0.001&11.28\\
モデル3&3.01&6&0.808&-8.99\\
モデル4&6.62&8&0.578&-9.38\\
モデル5&6.65&9&0.674&-11.35\\
\hline
\end{tabular}\end{center}
\label{a}\end{table}%
\end{document}

----------------------------------------------------------------------
Hideki TOYODA Ph.D., Associate Professor,      Department of Sociology
TEL +81-3-3985-2321 FAX +81-3-3985-2833, Rikkyo (St.Paul's) University
toyoda (at) rikkyo.ac.jp  3-34-1 Nishi-Ikebukuro Toshima-ku Tokyo 171 Japan                                  
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