[fpr 572] 推定と検定

豊田秀樹

豊田@立教社会です

C00279 (at) sinet.ad.jp さんは書きました:
>岡本@金沢大学です。
> 区間推定を広めることも必要だと思います。
> データは差などの母数を推定するために収集するのですから、値の存在範囲を
>推定する区間推定が自然です。

私は社会学部で調査法の講義をしています.まだ2年しかたっていませんが
その間に気が付いた推定と検定の「数理的+教科教育的」性質について書きます.

1元配置の分散分析母数モデルと層別抽出法の数理モデルはとても良く似ています.
ほとんど同じといってもいいくらいです.1元配置変量モデルと2段抽出法の数理
モデルもとても良く似ています.これもほとんど同じといってもいいくらいです.
しかし,

1.標本抽出法は実用的などんなデータの分布にも適用できる.分散分析は正
    規分布の仮定が必要.標本抽出法は有限母集団でも構わない.

2.層別抽出法は層毎に分散が異なっていても構わないけれど,分散分析では各水準
    で等分散である必要がある.同様に2段抽出法では,各抽出単位から異なる
    標本数で問題無いけど,変量モデルだと各水準同数選ばないと検定統計量の
    構成が極端に難しくなる(中級の教科書には載らないくらいです)

のように層別抽出法のほうが仮定が緩くて現実的です.しかも学生に示す場合
教科教育的には

3.内閣官房室や新聞社の例は(層別多段)無作為抽出の近似として良い例にな
    っているが,分散分析を使った例は(長谷川さんご指摘のように)何の無作
    為抽出なのかわからない,ということが多い.(鈴木さんは謙遜していろいろ
    問題点をおっしゃるけれども,それは近似的に実行できているからこそ出で来る
    不満です)

4.数学的準備として,抽出法は「中学数学+シグマ記号」だけで,標準誤差の
    公式を導く事ができ,文科系の学生でも天下りなしで,完全に理解できる.
    分散分析は,微分・積分・分布論が必要で,文科系の学生に天下りを使わな
    いで教えることは不可能.

5.FPRでも何度も登場しているように,検定には不自然な考え方や神話が
    多いけれど,推定は素直に理解できる.

という性質があります.調査結果の正しい解釈法は,(分散分析と異なり)
新聞や雑誌に毎日のように調査結果が載るので,専門分野に限らず社会人と
して役に立ちます.心理学科を出ても心理学者になる人は少ないから,本当
は分散分析ではなく,学部生には抽出理論のほうが社会に出てから役に立ちます.
だからこそ,天下り式でない教科書が望まれるのですが...
売っているほとんどの教科書では,初等的な数式展開で解けるのに,「こうい
う場合はこういう式を使うこと」の天下りのオンパレードなのです.
それでは学生に知的な興奮は与えられない.極めてが残念です.

という信念を持っていたのですが,仲の良い学生にも「先生,式ばっかり書いて
ないで,エクセルの使い方実習してよ」なんていわれることがあり,そんな時は
ガックリちからぬけちゃいます.天下りすらいらないということなんです.ましてや
公式の導出・意味を知りたい学生って少ないんですよね.

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Hideki TOYODA Ph.D., Associate Professor,      Department of Sociology
TEL +81-3-3985-2321 FAX +81-3-3985-2833, Rikkyo (St.Paul's) University
toyoda (at) rikkyo.ac.jp  3-34-1 Nishi-Ikebukuro Toshima-ku Tokyo 171 Japan                                  
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