[fpr 993] ソシオメトリック?

神村栄一

神村@新潟大学です.

まったくのROMメンバーだったですが,初めて失礼します.
メンバーの方に関心を持たれる方がいらっしゃるかと思い,発言させていただきます
.

先日,9月10日の産経新聞紙上で(未確認ですが,他の有力紙にも,掲載されたとの
ことです),以下のような記事が掲載されました.
なお,http://www.sankei.co.jp/databox/paper/9806/09/html/0609side010.htmlで
も,確認できます.

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  北海道・釧路の36歳小学校教諭が,クラスの児童全員に「一緒に遊びたくない子」
の実名とその理由を書かせるアンケートを行った.アンケート結果は同校で開いた父
母との懇談会の資料として活用され,「すぐ泣く」「わがまま」「悪口を言う」など
、「一緒に遊びたくない子」の傾向を説明する例の中で使われた(実名を挙げること
はなく、アンケートは集計後、破棄).同校は「(担任教員の)配慮が足りなかった
」として同市教育委員会に報告、その後,この経緯について校長やこの教諭が父母ら
に近く説明し陳謝した.
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  おそらく,ソシオメトリックテストが行われたのかと思いますが,このようなマス
コミの取り上げ方は,学校の中で行われる調査・研究すべてが極めて脅かされかねな
いと危惧を覚えるものです.
  研究,調査の名目で子ども立ちに大きな負担をかけることは厳しく戒められるべき
ではあり,倫理的な配慮はどんなに重視してもしすぎることはないと思います.しか
し,「心の否定的な側面に対するアセスメント・調査」は一斉に制限されるべきとい
うような風潮が形成されていくのはいかがなものでしょう.
 「友人関係で悩んでいる」という生徒Aがいたら,担任教師,あるいは,カウンセ
ラーなどが,その生徒Aから,「どのような子と,どのような気持ちからうまくいか
ないのか」を確認します.もちろん,この場合,仲良く慣れない生徒Bが指名された
としても,その生徒Bに実際にどの程度の問題があるかどうかは別です.ただし,生
徒Aは生徒Bについて,「うまくいかない」という気持ちを抱いていることをとりあ
げなければなりません.その情報が,その生徒AはもちろんBの指導にきわめて重要
であると考えられるためです.
 このような関わりを,予防的な意味も含めてクラス全体で,システマティックに,
より客観的・実証的に行うことになると,上記の記事の教師のような方法になるわけ
です.そこに「細かい配慮の足り無さ」があれば,それはそれを問題にすべきであり
,このような試みをおこなおうとしたこと自体に問題があるとは言えないのではない
でしょうか.
 学校での調査研究に詳しいある方にうかがったところ,現在のところ,「嫌いな友
達」を指摘する方法はまず無理で,「好きな生徒」だけを記入させる方法も,難色を
示す学校が多くなっている,とのことです.
 私個人は,ソシオメトリックテストを行ったことはありませんし,どちらかと言え
ば,「担任ならば同テストを調査せずとも,いつでもクラスの関係図を描けるくらい
に,生徒のなかに入り込んで参加観察して欲しい」と考える方ですが,「子どもたち
の心の否定的な側面をアセスメントすることは許されない」というようなガイドライ
ンが教育の場で確立してしまうことは,児童・生徒のための「心の教育」にとって,
間違いなくマイナスです.
 現在,学校カウンセラーの活躍が広まっておりますが,カウンセラーが担任に「こ
の子の家庭の状況について教えて下さい」とうかがうと,「それは,プライバシーで
すので,聞いてませんし,聞けません」と回答する担任が多くなってきているという
話もあります.
 つい最近自分が経験したことですが,それまでに何度か生徒指導や教育相談に関わ
ってきた学校で「子どもたちの学校ストレスの状況を測定することで,問題行動の予
防に役立てたい」と提案したところ,その学校の教員の方の一部から,「こういうの
は,問題ではないか」という指摘を受け,何度も繰り返し説明にうかがっうというよ
うな苦労を経験したことがあります(個人的には,何らかの形でメリットを学校と学
校の生徒に残せない,調査オンリー,は,慎むように自ら決めておりますので).実
際には,この結果から「要注意」と評価された生徒が間もなくトラブルをおこしたり
して,その意義を理解していただいたのですが...
 とかく教育の現場では,子どもたちの「善」を「善だけを見ていき,善にだけ関わ
るアプローチ」で伸ばしていけばよい,「悪」に目を向ける必要はない,もとより,
「子どもたちの中に悪の存在を前提とする教育は教育でない」というようなドグマが
少なくともかなりの程度支配的です(一部には,勇気をもって,「子どもにも悪はあ
る,そこをじっくり見つめていく必要がある」と発言される方もおりますが).そし
て子どもたちの「悪」を目の当たりにすると,「最近の子どもたちはわからない」と
混乱し,「家庭はどうなっているのか」,「食べ物が悪いのではないか」などと責任
転嫁しがちです.生徒の「悪」にも目を向け,生徒の心の中の「悪」にその生徒本人
といっしょに対峙していくことも必要であることは,自明のことなのですが,その常
識が常識でなくなりつつあるのであれば,問題は極めて深刻です.
 話題を拡散させるつもりはありませんが,子どもたちの悪に丁寧に接近していく研
究あるいは教育・臨床活動が守られるように,心理学者としてアピールしていく必要
もあると考えるのですが,この件について,メンバーの中で関心ある方のご意見を希
望します.







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