南風原@東大教育心理です。 豊田さん@立教大学が以下のように書いています: >たとえば,包括的核の取り扱いの,ある政策について >アメリカ・ロシアの大統領とイギリスの首相が支持し,日本の首相が反対したと >いう結果だとしたら, > > >「表裏の確率が半々のコインでも4回中 > >3回表というのは珍しくない。したがって過半数と言っても4人に3人ぐらい > >じゃ,特に何と言うこともない。」というような解釈の仕方です。 > >というような解釈は,まったく参考にならないと思うのです. 上の例では,確率的な議論を持ち出す人はあまりいないでしょうね。特定の 誰某がどういう意見をもっているかに関心があるわけですから。 >なにか具体的な文脈での分かり易い御利益の例示はできないでしょうか? 「御利益」かどうかは考え方によっていろいろだと思いますが,具体的な 例ということであれば,心理学関係の研究論文の多くがそれに該当すると 思います。母集団を特定せず,したがって無作為抽出もせず,それにもか かわらず,男女の平均値に有意差があると言う場合,「それだけのサンプ ルサイズで,それだけの平均値差(効果量)のとき,等分散正規分布から の独立な標本ならば有意な差になる」ということは言えるわけです。その ことはデータの収集手続きからして何の情報にもならないという立場もあ るでしょうが,そのモデルに慣れ親しんでいる人にとっては,得られた平 均値差の大きさの解釈に多少とも参考になるケースがあるのではないか, ということです。(繰り返しになりますが,後者のように考えるべきだと 主張しているわけではありません。) この後者のような解釈なら,検定結果に過度に依存するというようなこと もなくなると思いますが,その一方で,具体的な母集団・標本関係を作り 上げ(考え出し),そこに確率モデルを適用するという考え方に比べると, 検定力分析など,確率を実際的な頻度と直接的に結び付けた議論は難しく なります。 --- 南風原朝和 haebara (at) educhan.p.u-tokyo.ac.jp 〒113-0033 東京大学 大学院教育学研究科 TEL:03-5802-3350 FAX:03-3813-8807
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