[fpr 1555] 基本的なことですが

岡本安晴

  岡本@金沢大学です。


  湯浅秀道@名古屋市立城北病院口腔外科さんより:

>2)一般に母集団から標本を無作為に抽出することは
>不可能である。・・・省略・・
>・したがって、偏った標本であるために母集団の
>特性Θを統計学的に「推定」使用と
>しても、未知のバイアスが生じ推定する事は意味がない。
>3)しかし、実験・試験の目的は母集団特性の
>推定にあるのではなく、処理効果の
>「比較」があるので、統計学的に「比較」できる
>環境を整えてあげればよい。

  心理学においては、「推定」に意味があり、「比較」は
それに比べると弱いと思います。「推定」を正当化する
方法と論理が必要なのです。
  有意水準が1%、あるいは0.1%で差が認められても、
その差が全変動量の数%のものであれば、残り90%以上の
変動量は説明できません。まずデータの大勢を説明する
要因を問題にする必要があります。
  ある要因がどの程度現象の変動に関わっているのかを
調べるときは、「推定」が求められます。単に、違いが
あるという「比較」では、森全体を見ずに一本の木の
枝葉を問題にしているに過ぎないということになる
危険があります。


  上のことにも関連するのですが、南風原さんの[fpr 1546]

>これは結局,注目している変数および
>統計量に関して,母集団に対す
>る標本の代表性ないしは一般化可能性を
>評価していることになります
>が,こうした評価は非統計学的なものですから,

について少し論を発展させたいと思います。

  「一般化可能性」の認識は本質的なことだと
思います。
  物理学の実験、例えばピサの斜塔での落下実験の
結果は普遍的なものとして理解されております。
神が気まぐれであの時空間のみにおける結果として
示されたと理解するのではなく、例えば現在においても
東京タワーで同じような実験を行えば同様の結果が得られる
と了解されていることだと思います。
  地球上で確認された物理法則は地球外、あるいは
銀河系外においても成り立つという前提で研究が
進められております。
  これらは実証的研究における特定の仮説検証が意味を
もつためのいわばメタ仮説です。

  統計的モデルとデータとの関係の問題と、
これらのメタ仮説の妥当性の問題は異なる
レベルの問題として意識されるべきものと
思います。

  「基本的なことですが」は、メタ仮説の問題として
考える方が実証科学としての心理学としてはより有意義
であると思います。
  もちろん、このことは統計学的問題点に目をつぶる
ということではありません。統計学的問題点は問題点として
論じられなければなりませんが、それのみに目を奪われると
実証科学としての心理学の研究法全体が見え難くなるのでは
と思います。


金沢大学文学部
岡本 安晴




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