[fpr 1568] 基本的なことですが

井原零

はじめまして&あけましておめでとうございます.

いはら@くらしき作陽大学ともうします.

面白い議論なので少し参加させて下さい.尤も,少々話を拡散させて
しまうかもしれないなぁと危惧はしております.^^;
ちょっと話が長くなるかもしれませんが,後の発言の前提となります
ので,自己紹介をさせていただきます.
私自身,以前は素粒子・原子核関係の実験物理学を研究しており,情
報処理関係の仕事を通じて心理学研究の一端に触れた経験を持つもの
です(その節はお世話になりました>石原さん).現在,情報処理教
育の問題でアンケート調査などを行い,その分析に悪戦苦闘しており
ます.
私が,情報処理関係の仕事を通じて心理学での統計の扱いを知った時
の驚きは,今も鮮やかに思い起こせます.初めて,分散分析と検定に
その時出会ったわけです.なんでこんな事するんだろう?という驚き
でした.我々の物理の世界では,実験データと誤差 vs.理論カーブと
の比較で統計の話はお終いでしたから.もう一つの驚きは,変数でし
た.えっ?そんな曖昧な定義のものが変数でいいの?という所です.
(この辺の所は,わが大学におられた故桑田先生とよく議論したもの
です).どうしてこんな違いがあるんだろう?という素朴な疑問には
結構悩まされました.
物理でも,統計の扱いは現在も非常に難しい問題として扱われていま
すが,実験物理学での統計学の活用は非常にシンプルです.前者の難
しい統計の問題はかなり物理学そのものにとっても深刻で本質的な問
題なんですが,ここではそれは触れません.ここでちょっと触れてお
きたいのは,実験物理での統計学の活用がシンプルな点です.
これは,対象と変数の問題だと思います.皆さんご存知のように,物
理学での調査対象(実験対象)は,電子だとか陽子だとかいう「物質」
です.ここでの大きな前提は,対象の物質に「個性」はあり得ない,
また「不変」であるということ,それに,変数に取られる量は,物理
学的にdefiniteであるということです.非常に「静的」staticな世界
であるということです.宇宙創生から未来永劫物質は変わらないとい
う前提があるわけです.そういう前提の下で,理論と比較して理論の
サポートになるか,理論が記述し切れていないかを議論したり,新た
な法則性を抽出したりしているわけです.この世界で,私自身も手が
けていた稀少事象(rare event)の従来理論での記述不可能性を示す
のに「検定」をするという事が,尤も複雑な統計の扱いでした.ただ
この様な稀少事象の多くは追試によって消え去っていますが.

一方,心理学での調査対象は,多くの場合「個人」です.これは,時
々刻々変化するわけです.個としても,マスとしてもです.昨今では
若年層の感性の多層化によるユレも無視できません.要するに,調査
観測対象であるエレメントが均質でも無ければ不変じゃないところが
物理との大きな違いじゃないかと思えます.変数も,意味的に非常に
深さと広さを持つ量がとられます.ですから,物理学で得られるよう
な法則性とは大きく異なる法則性が導き出されるのは当然のことだろ
うと思います.統計学の適用も異質に成らざるを得ないわけです.先
に書いた物理学で対象とする世界を静的(static)とすると,心理学
が対象とする世界は,動的(dynamic)です.ですから,統計学も当然
動的な統計的扱いであるべきなんでしょう.では,心理学での調査分
析の結果というのはどこで妥当性が得られるのか?というと,分析の
確かさより結果の持つ射程じゃないかと思います.どこまで世界を記
述できているのか?という点じゃないかと思います.臨床的に効果を
もたらすとか,結果をベースに対策を立てたことが効果をもたらすと
かで評価されるしかないんじゃないかな?と思っています.

私が,現在,情報処理教育をどう変えて行くべきかという問題に対し
て些か模索的なアンケート調査を行い分析を行っているところですが,
方向性として,一つの見方をまず提示できればいいかな?と思ってお
ります.いわば,探索的な分析をしているわけです.で,そこから得
られた「仮説」は,再調査によって「検証」できるとは思っていませ
ん.再度調査するとすれば,結果に深みと射程の広さを得る事を目的
にせざるを得ないだろうと思っています.適正なサンプリングなんて
無理なんじゃないか?というのが上に書いた前提から言えることじゃ
ないかと思っています.調査対象,調査背景それぞれの関係性から考
察を加えるしか手はないでしょうし,再調査によって前の調査と異な
った結果が導き出されたとしたら,もう少し広い枠組みで考察し直す
という方向になるんじゃないでしょうか?

どうも,門外漢の的外しな議論になっているような気がしてきました
のでこの辺にしておきたいと思います.おまえ,それは大きな考え違
いだぜという点があればどしどしご批判いただければと思っておりま
す.

そのうち,現在の分析について色々ご相談に乗っていただければ
と思っておりますが,その時はよろしく.

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