岡本@金沢大学です。 井原さんのメール、拝見致しました。 返事をエディタに打ち込む時にfprからのメールではなく、 個人メールであるのに気がつきました。が、間違いとの ことなので、ルール違反にならず安心しました。 井原さんは調査のご経験に基づいての感想、私は 実験心理学を専攻している者としての考え、という ずれがあるようです。 調査は心理学に限らず、いろいろな分野で用いられている ものです。心理学にとって調査はいろいろある方法の1つです。 心理学と物理学という対比のようなので、実験心理学という ことで書かせて頂きます。 >少々岡本さんの話を拡散させる >方向に作用してしまったようですね.申し訳在りません. 拡散してもよいのではと思います。私の方は麓さん[fpr 1573]が 井原さんのメールに言及なさったとき、井原さんのメールが 「物理学はちゃんとしているが、心理学は未だだめ」という風に 読まれていると思い、物理学をちょっと斜めから見てみたメールを 投稿してみたものです。 井原さんのメール、私がrespondするべきではない、 豊田さんたちの方が適任であると思っていたのですが。 >純粋に理論の枠組みだけが問 >題になるとか純粋に心理学的な内容だけが >問題になるということは, >実際の調査ではあり得ないと思います. あります。私の研究テーマの一つに感情の双極性の問題が ありますが、この問題のために質問紙を作成する時(したがって、 質問紙を使って学生相手に調査を行っています)は感情の双極性 という純粋に心理学的な内容を問題にしております。 >質点の力学の話をここで >議論をするつもりはありませんが, 言いたいのは、質点という物理学における構成概念がどうのこうの ということではなく、井原さんが心理学についておしゃってることは、 ちょうどこんな感じがします、ということです。 >数学での「点」が実在しな >いから「点」は幻想の存在だ 数学はヒルベルト以前とヒルベルト以後とで考え方が異なっています。 ヒルベルト以後は「実在」とかそういうことは問題にしません。公理に 基づいて形式的・論理的に論を進めるという立場です。公理系に矛盾が なければよいので、実在は問題にしません。 つまり、数学は実証が問題となるものではありません。実証が問題と なる物理学や心理学とは異なります。 >物理学では,ミクロの現象とマクロの現象を同時に記述する >ということはいたしません. もちろん、その通りです。分子運動(ミクロ)で 温度(マクロ)などを論じるということはあるでしょうが。 ただ、外部の人間が単純に考えると、このような変なことがあります、 という意味です。これは心理学を外部の人が見た場合も同じような ことがあるのではと思いました。 >長さは,別に相対性理論を持ち出すまでもなく, ローレンツ収縮を説明するために長さ・時間の概念の "根本的"な再検討が相対性理論においてで行われたわけで、 そのような相対性理論における長さの概念においてという 意図でした。 >その棒の長さがどういう場面で議論され >るのかが設定されているはずです.棒の長さの精度がどれだ >け必要かですね.何の前提もなくとにかく出来るだけ詳しく >という場合は考えられません. Measurement theoryという分野があります。数理心理学の 人が主となって研究が行われていますが、この分野で長さなど の量についての理論的な研究が行われています。ここでは 誤差を含まない長さが問題にされています。ランダムな変動を 含む場合も扱われています(念のため)。この分野の人たちは これらの量についての考察において物理学における基本的な量も 考察の対象にしています。 >私が,心理学(そう限定するのも変ですが),調査項目と >そのスケールという「パラメータ」そのものが,長さとか >重さ(質量)とかいう物理量とは異質なものであるという >所を,書いていたつもりなんですが.... 「パラメータ」という言葉と比較されるのではちょっとという 感じがします。そもそも井原さんのいう心理学がどういうものなのか 明確ではありません。 心理学というのであれば調査に限定した議論は歪んでいると 思います。井原さんは心理学(実験心理学)について耳学問的な 御理解しかないのではという印象を受けます(失礼)。心理学の メーリングリストで心理学の批判をなさるのなら、ある程度の心理学の 御勉強を前提としておくべきだと思います。 「物理量とは異質」ということが、「心理学はいい加減、曖昧である」 という風に読めるとしたら、心理学を専攻している者の一人として、 「心理学をまともに勉強せずにいい加減な議論を吹っかけないで 頂きたい」と思います。 ま、このような議論は普通は無視するのですが、今回、麓さんの メールの都合上、私論をfprに書かせて頂きました。 >これは,物理の場合,測定精度という形になります.測定 >誤差がガウス分布するということになります. 物理の場合、確率は誤差という解釈だけではなく、その対象 にとって本質的であるという考え方もありますね。量子力学の 場合の確率ですが、誤差という立場と本質的であるという立場 の両方があったように記憶しております。 心理学の場合(調査に限定していません。実験心理学において という意味です)、確率は同じく誤差を表わすと考える場合と 本質的と考える場合と両方があります。 >広い意味では,物理学は「もの」を扱うとはいえ,幻想の学問に >は違いありません.そういう意味では,心理学も数学も統計学も >全てそうなってしまいます. 物理学者が物理学をどのようにお考えになるかは勝手ですが、 他の領域まで巻き込まないで下さい。 数学(統計学も数学の1分野として含めます)は上に書き ましたように実証に対しては物理学や心理学とは異なる位置に あると思います。 また、「幻想」という言葉は、物理学者が心理学のことを よく言っていないという印象(これは麓さん引用が私にバイアスを 掛けているのだと思いますが)を受けたので使った言葉です。 質点は心理学で言えば構成概念になります。構成概念を 用いた理論を実証的に検証するためには、現実の世界・データ との対応を規定する必要があります。心理学ではこれを操作 といいます。質点の運動理論をデータに対応付ける操作においては、 重心が理論と観察可能な現象を繋ぐものになります。この 意味において、すなわち重心という概念・操作の導入によって 質点は幻想ではない、現実の世界との繋がりをもつ理論的 構成概念となります。 上の事情は心理学においても同じです。 >なんだか物理を擁護するような話ばかりになってしまいましたが, >統計が物理学でも心理学でも使われるからといって,同じ枠組みで >議論しちゃうと踏み誤っちゃうんじゃないかなという考えです. 異なる学問間で同じ枠組み、というより、同じ学問内において 確率が一つの意味で用いられているわけではないという点に注意が 必要です。 大学内の問題に対応するための調査データのみを相手にしていると 一つの意味しか出てこないかも知れませんが。 >読み返してみて,ああ,また拡散しちゃうかなぁと.... >でも,再度,投げちゃいます. > >追試についての議論も,私にはどうも合点がいかないところが >あります.私が前に議論した,物理で前提となる「不変性」が >成立していないからです. > >その辺に対するご意見お待ち申しております. 上の書き方、個人メールにしては変だなと思ったのですが。 「不変性」という言葉は、心理学の基礎理論においてもあります。 Measurement theoryという分野でmeanigfulということを議論する とき出てくる概念です。「ある法則が科学的に意味があるという ことはどういうことか」が研究されているのですが、 この研究は、拙論 「聴取実験データにおける統計・尺度」 日本音響学会誌、1999、723−729 でも紹介しておりますので、心理学の基礎的な考え方に御興味が おありだということでしたら、お読み下さい。また、そこの文献に 挙げてあるものから読み進めていかれることも面白いと思います。 耳学問も楽しいですが、本当に理解したときは自分で勉強 するしかないと思います。 物理学は、理科好き人間として大好きですし、素晴らしいと 思っています。 心理学も同じように思いたい岡本です。 金沢大学文学部 岡本 安晴
ここは心理学研究の基礎メーリングリストに投稿された過去の記事を掲載しているページです。