豊田@早大心理です Kazuo Shigemasu さんは書きました: >繁桝@東大駒場です。 >レスポンスしたかったのは、このような追試研究の検索のために、全国の卒論の >リストアップを考えたらどうかということに対してです.(守さんの提言.〕私は、 >日本心理学会の情報化検討委員会を担当しています.HPもまがりなりにも立ち上が >りましたが、この情報サービスとして、修論、博士論文のアブストラクトぐらい >はと考えていましたので、卒論を含めて、委員会で検討してみます. >一つのアイデアは、NHKの”昼の憩い”の通信員のように、ボランティアを募って、 >希望校のみのリストを載せるというものです.もし、そうなれば、このfprの人た >ちに期待するところが大きくなります. せっかくなら,一歩進めて直交表を使った研究の募集を進めるべきです. 得られる情報・知見の量と質が全然違いますので,その分野の研究が飛 躍的に進みます. >その一つ一つに統計的な検討の違いが出てきます.(最近出た、佐伯、松原編、実 >践としての統計学で 同じ著者の論文に,松原 望 1990 人間の測定,(柳井・岩坪・石塚編, 人間行動の計量分析 第10章,東京大学出版会)というものがあります. その中で「責任」を規定する要因を調べる調査研究が登場します.松原 氏は「結果」「関与」「前歴」「故意」という4つの要因を挙げ,16 回の独立した調査を行い「故意」「関与」「前歴」「結果」の順に説明 力があり,「関与」「前歴」には交互作用が有ることを見出しています. これを直交表でわりあてると8人の協力者(卒論?)を募集し 1 2 4 7 6 結果 関与 前歴 故意 関×前 1 重 無 有 高 1 2 重 無 無 低 2 3 重 有 有 低 2 4 重 有 無 高 1 5 軽 無 有 低 1 6 軽 無 無 高 2 7 軽 有 有 高 2 8 軽 有 無 低 1 とわりあてて調査(実験)します.更に2,3人,募集者が来てくれたら 9 重 無 有 低 10 重 有 無 低 11 軽 無 無 低 12 軽 有 有 低 13 軽 有 無 高 14 重 有 有 高 15 重 無 無 高 16 軽 無 有 高 の中から任意の行を選んで,交差妥当化を行います. この具体例だけでは,たいした事がないように思えるかもしれませんが, 32人集まると,2水準の主効果と交互作用の合計を31個まで調べることが できます.31個くらいの要因が影響を与える心理現象はたくさんあります. 64回の調査・実験では63個です.そういう研究対象に対して3要因配置くら いの調査・実験を数万回繰り返しても全体像はけっして掴めません.多くの 調査・実験系心理学者はその徒労に気が付いているはずです.いくら3要因 配置をくりかえしても,安定した結果はでないからです. 無作為割当ては,もちろん大切かもしれませんが,医学の分野では「ポリオ にはポリオワクチンが効くか」「ガンにはこの抗がん剤が効くか」にように ある特定の特性値に突出した影響力をもつ少数の要因の確認が主たる任務に なりますが,心理学の研究では中々そうはいきません.制御因子よりは標示 因子のほうが多く,無作為割り当はできないのです.電機製品は100個くらい の要因を考慮した実験を経て市場に出ます.3元配置なんかしていたら100年 たっても新製品はでてきません.心理学者は製品開発から方法論を学ぶべき です. たとえば「農村ー都会」という要因をとりあげ,それぞれの地域に住む研究 者に,直交表でわりあてて研究してもらい(無作為割当てとは逆の方向で), 中央の委員会にデータを返してそこでまとめて分析するというのは夢でしょ うか. ちなみに田口玄一氏の言に因れば,デトロイトをはじめとする米国の現在の 経済の高調の原因の1つは,日本製の直交表の活用だそうです. -- -------------------------------------------------------------------------- TOYODA Hideki Ph.D., Associate Professor, Department of Psychology TEL +81-3-5286-3567 School of Lieterature, Waseda University toyoda (at) mn.waseda.ac.jp 1-24-1 Toyama Shinjyuku-ku, Tokyo 162-8644 Japan --------------------------------------------------------------------------
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