岩男@関東学院大学と申します. 今日は,統計的推定(および検定)における母集団の 意味について質問したく,メールしました.これは, 現在話題になっている追試研究についても関連するこ とです.長くなりますが,是非お教え下さい. 現在,分析しているデータは,とある大学のある学部 のある学年の学生全員に対して行ったある教育的な介 入の効果に関するものです.最終的に知りたいのは, その教育的な介入に効果があるか否かです.この学生 たちを3群に分け,教授法1,教授法2,介入なしの 3群で,効果を比較しています.この3群は,その授 業のために,便宜的に学生を3群に分けたもので,無 作為配置だと見なせると思います. それぞれの教授法でどのような効果があったかを細か く知りたいので,単に有意な差があった,なかったと いう2値的な判断を行うのでなく,群ごとの母集団平 均の区間推定を行いました.ですから,3つの群ごと に母集団の信頼区間が出ます. ところが,ここではたと考え込んでしまいました.こ の場合の母集団というのは,何を意味するものだと解 釈すればいいのだろうか?,と. 解釈1. まず,この3群はその大学のある学部1学年を無作為 に分けたものですから,それぞれの群の母集団平均は, この大学の学部1学年全員に対して,それぞれの教授 法を行った場合の平均を推定している,と考えること もできるかもしれません.しかし,この場合その大学 のその学部のその学年以外への一般化可能性について は何の情報も得られていないことになると思います. 解釈2. 突然,日本の大学生全体に対して,それぞれの教授法 を行った場合の母集団平均とみなす.しかし,かなり 強引. 解釈3. 解釈1と解釈2の中間で,おそらくこの研究が扱って いる教授法の効果がありそうだと思える何らかの能力 やスキルなどを持つ集団にたいして,教授法を行った 場合の推定値. おそらく,解釈3がまあ普通の解釈かと思われます. しかし,これも「みなし」に過ぎないわけです. 人間全体や日本人全体の心の構造は云々などというパ ーソナリティの研究と異なり,教育的介入の場合,結 局介入の単位は,学部の1学年であったり,高校のク ラスであったりするわけです.この場合,どのような 情報が研究結果として掲載さえていると有益かと考え てみましょう.そうすると,なんだかよく正体の分か らない「母集団」の平均がどうであったという情報よ りも,具体的なある大学のある学部の何年生では,こ の程度の効果が見られた,という情報の方が有益では ないでしょうか? 大学名を出すのが問題だとしても, 例えば,この程度の偏差値のこういう領域を専攻する 何年生だとこういう効果だったということが分かれば, では私の所の学生では,多分効果がなさそうだからや めておこうとか,私の所はよく似た状況のようだから, 試みてみよう,などと推論することができるはずです. むろん,「効果」をどう記述するかは難しい問題です. 「効果量」のような指標もありうるでしょうし,それ こそ箱ひげ図のようにデータそのものがよく分かるよ うな形で提示することも可能でしょう. というわけで,パーソナリティ研究のように人間全体 や日本全体に一般化する場合については知りませんが (しつこいですね),少なくとも教育的な介入の効果 を調べる場合,母集団の推定結果や検定結果を書くよ りも,これこれのような特徴を持つ集団では,これこ れの効果が得られたという結果を記す方が有益ではな いでしょうか? そして,現在追試の話題が盛り上が っているようですが,追試を行った場合も,推定や検 定結果よりも,同様にこれこれの集団では,何々の効 果が得られたと記せばいいわけです.そして,追試を 行った集団とオリジナルの集団が著しく性質の異なる 集団であるにも関わらず,同様の効果が得られたので あれば,これは非常に一般化可能性が高いと判断し, この教授法は「一般的に」効果がありますと宣伝すれ ばよいわけです(あ,カテゴリに基づく帰納推論です ね). 以上,長くなりました.おそらく,統計的な推定や検 定,母集団などの概念についても誤解している部分が 多いのだと思いますので,よろしくご教示下さい. ********************************* 岩男 卓実(Iwao Takumi) 関東学院大学 法学部 E-mail: iwao (at) kanto-gakuin.ac.jp tel: 0465-32-2624(研究室直通) ********************************
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