[fpr 1629] 実践としての統計学

豊田秀樹

豊田@早大心理です

Hidemichi Yuasa さんは書きました:
>先ほど紹介のあった、
>東大出版会 「実践としての統計学」 >ISBN4-13-042070-4
>を読みました。

私も森さんのように,送って頂きました.有り難う御座います.まだ序と
第2章を読んだ段階ですが,相手は大御所なので,遠慮せず,以下に批判
を展開してみます.森さんが言うような議論の先鞭になれば幸いです.

「B1歯が痛くて」医者に行ったら「B2黒くて」「B3陥没していて」「B4
異臭がして」「A虫歯」ですねと医者に言われたら,「「Bである」という
命題からは「Aである」という命題は導き出せない」と反論する人はいな
い.2.4.4 の結論は,論理命題としては正しいが,全く「実践」的でない.
「ウサギ」の例と,この「虫歯」のような例をバランス良く論じて,2.4.4
の結論とすべきである.

因子分析の間違えた解釈を P.99 で展開している.まず最後の2行「これ
まで...わかった.」は,因子分析の結果からの解釈としては,不適当
である.また,それ以前に,
「A1 総合学習は従来の教科とはかなり異質な活動である」
「A2  総合学習は評価が難しく,評価の結果は乱数とほとんど変わず,確立しない」
という2つの異なった立場は
「B 第2因子の因子負荷は総合学習だけ絶対値が大きい」
という同一の分析結果を導く.しかし「B」という分析結果から「A1」の
可能性だけ論じており,著者(佐伯氏)自身が自らの戒めを破った解釈を
している.自己矛盾である.

p104で「因子分析の数学的な「しくみ」の中には,因子や因子負荷量の
「実在」を証拠立てるものは何もない」と述べている.「実在」しないこ
とは構成概念の定義から明らかである.「それでは因子構造の「実在」が
証拠だてられるのはどういうときかといえば...」とも述べている.し
かし大前提として「実在」の必要はない.「実在」しなくとも「景気動向
指数」や「肥満指数」など,経済や医学の分野でも,測定して「実践的」
に役に立てている構成概念は,いくらでも挙げられる.
「実在」しなくとも「実践」的に役に立てられる構成概念を構成する方法
を考えるべきだ.このためには,もちろん因子分析以外の研究と連動させ
ることは大切だが(ここは著者に賛成である),因子分析の数学的な「し
くみ」の中にも,もちろん多数存在する.たとえば「B1 構成概念の性質
から因子パタン行列の一部を0に固定する」「B2 同一の構成概念を異な
った時期に測り,影響指標に等値の制約を入れる」「B3 性別に影響され
ないと予測される構成概念に,男女の多母集団の因子分析をして構成概念
間相関に等値の制約を入れる」「B4..」「B5..」などなど,モデル構
成をして,適合度が下がらなければ,「A」を利用することの「実践的」意
義が高まる.これらは全て,近代的な「因子分析の数学的な「しくみ」」
である.確認的な多母集団の因子分析には,「B」の記述を豊かにし,デー
タに試練をくぐらせる「数学的な「しくみ」」がたくさん用意されている.
著者は1960年代の因子分析モデルを念頭に,第2章の結論を書いたのではあ
るまいか.

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TOYODA Hideki Ph.D., Associate Professor,         Department of Psychology
TEL +81-3-5286-3567               School of Lieterature, Waseda University
toyoda (at) mn.waseda.ac.jp    1-24-1 Toyama Shinjyuku-ku, Tokyo 162-8644 Japan
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