岡本先生,南風原先生,豊田先生,早速のレスありがとうございました.大 変参考になる意見を頂きました.まだ分からないことが残っておりますので お教えいただけると幸いです.また,他の先生方もお知恵をお貸しいただけ ると幸いです. 岡本先生は書かれました: > 最近、心理学において統計的解釈を軽視する方向に針が >振れ過ぎているように思います。皆さんはどのように >感じておられるでしょうか? まず,私自身は統計的解釈を軽視するつもりは毛頭ありません.前回のメー ルでも書きましたように心理学的な解釈は,統計的な解釈に基づくものです. ですから,統計的な解釈と矛盾するような心理学的解釈を行ってはならない でしょう.統計学的には誤りだが,心理学的には正しい解釈などというもの もあり得ないと思います. > 心理学的解釈は実証的証拠に基づくべきものですが、実証 >的証拠の1つとして統計的証拠・解釈がある以上、統計的解 >釈と心理学的解釈の不一致点を解消する理由付けを明示する >必要があります。 私の書き方が悪かったのだと思いますが,私は統計的解釈と心理学的解釈が 異なる場合,心理学的解釈を優先すべきだ,と主張しているのではありませ ん.データの統計的な分析を行うことで,それに対する統計的な解釈結果が 得られます.私の論文の場合, (確証度の予測値)= 0.77**(類似度)+ 0.06(被覆度)(R^2=0.633) となったことから, ・類似度と確証度には正の関連がある. ・類似度の値を固定した場合には,被覆度と確証度には関連が見られない. となると思います(類似度と確証度の単相関は有意に正であったとします). ここから,柳井先生は, 被験者が確証度の判断に類似度を利用している場合には,被覆度の利用は確 証度の予測を高めるものとはならない. という心理学的な解釈(南風原先生が指摘されたように,この解釈にも心理 学的な解釈は確かに入っていますので)が「正しい解釈である」と述べられ ています. 私は, 被験者は確証度の判断を行う際には,類似度を利用しており,被覆度は利用 していない. という心理学的な解釈を行いましたが,柳井先生はこの解釈を「誤り」であ ると述べられています. 確かに,データに対する統計的な解釈をより忠実になぞっているのは,柳井 先生の解釈でしょう.しかし,研究にはその研究ならではの問題意識,研究 目的というものがあります.私の研究の場合,確証度判断に類似度が影響す る(利用されている)ことは,先行研究からも分かっているが,被覆度がど のような形で影響しているのかについては,明確な結論が得られておらず, それを明らかにしたかったわけです. この研究目的に照らし合わせて考えると,柳井先生の心理学的解釈ではまだ 解釈の余地があることが分かる思います.柳井先生の解釈では,結局,人が 論証の確証度判断を行う際に,結局被覆度を利用しているのか,いないのか, が不明確なままだと思うのです(私のこの考えが誤りなのかも知れませんが) .ですから,この柳井先生の解釈からもう一歩踏み込むと,更に次の2つの 心理学的解釈があり得ると思います. 解釈1:確証度判断を行うとき,被験者は類似度を利用していた.類似度が 被覆度に影響を与えているとすれば,「類似度」が「被覆度」と「確証度」 の共通原因となり,「被覆度」と「確証度」の相関は偽相関である(豊田先 生の御指摘を受けて,表現を改めました). 解釈2:確証度判断を行うとき,被験者は類似度・被覆度ともに利用して判 断を行っている.ただし,類似度が同程度の論証しかない場合には,確証度 判断に被覆度は利用されない. そして,私が論文で採用している解釈が,この解釈1であることはもうお分 かりだろうと思います.私は,前のメールで競合仮説を排除するために心理 学的知識を用いることがあるのではないか,と述べましたが,私が競合仮説 という言葉で表現したかったのは,解釈1と解釈2のことです.豊田先生の 「実質科学的な解釈を付加して,結論を絞らねばなりません」という指摘と 同意です.柳井先生の解釈は,解釈1と解釈2のどちらを採るべきかについ ては何も述べていないため,競合する仮説を排除できていないと述べたわけ です. 私が解釈2でなく,解釈1を選んだのは,先述したようにこの研究領域固有 の心理学的な知識に基づくものです.それは類似度や被覆度の定義であった り,(論文では言及していませんが)被験者が確証度判断を行う際のプロト コルデータなどであったりします.また,心理学的に考えたとき,解釈2の 「類似度が同程度の論証しかない場合」という状況にはあまり意味がないと いう消極的な理由もあります.私の論文では更に,被覆度に代えて,概念的 には似てはいますがが,計算方法の異なる「分散度」という新たな変数を提 案し,分析を行いました.その結果,わずかではありますが,よりよい予測 式を得ることができていました. (確証度の予測値)= 0.77**(類似度)+ 0.25**(分散度)(R^2=0.692) 確かに,私の論文では,このようなことがきちんと書かれていません.被覆 度の偏回帰係数がゼロになった場合,被覆度と確証度の相関が偽相関に過ぎ ないのは,あまりに自明なことと考えてしまったからです.また,データの 表現として問題なのは,確証度・類似度・被覆度の間の単相関が示されてい なかったことでしょう.とは言え,私自身は以上のような考えで論文を書き ました.そこで,最後に再び質問です. 質問1:やはり私が論文で提出している解釈は柳井先生がおっしゃっている ように「誤った解釈」なのでしょうか? それとも単なる記述不足なのでし ょうか? あるいは,そのどちらでもない「何か」なのでしょうか? 質問2:もし,「誤った論文」ではなく,「記述の不十分な論文」であるの なら,どうすればいいのでしょうか? もちろん,信州大学の守先生が運営 していらっしゃるKRレビューもありますから,そのような機会を利用するこ とは可能でしょう.しかし,このFPRにしてもKRレビューにしても,教育心 理学会の全員が見ているわけではありません.正直に申しまして,私のよう な駆け出しの研究者にとっては,この問題は重大な問題です.教育心理学会 の全会員及びその他多くの方が,この教育心理学年報をご覧になることでし ょう.その大部分の方には,岩男は統計を誤用する奴として定着することに なります.例えば,私はここ数年,新潟大学において,コンピュータを利用 したデータ解析の実習を集中講義の形で教えております.エクセルやSPSSを 利用してデータを集計・解析する方法を教えるとともに,統計的手法やその 意味・意義の説明もしております.自分としてはなかなか分かりやすく,好 評を得ている(^o^)と思っているのですが,もしこの柳井先生の指摘のみご 覧になった方が,「なんでこんな奴にデータ解析の実習なんてやらせている のだ」ということになれば,私を集中講義に呼んで下さっている先生にも迷 惑がかかることになります.誤った論文なのであれば,何らかの形できちん と誤りについての訂正を行いたいですし,記述不足であるのならば,きちん とした記述を何らかの形で提出したいです.残念ながら,教育心理学会には, そのようなことを行うための制度(例:誌上討論など)はないようです.も ちろん,ここで議論した結果などをふまえて,柳井先生にも私の考えをお伝 えするつもりですが,正直に申してこの問題は死活問題です.何卒,お知恵 をお貸し下さい. ******************************** 岩男 卓実(Iwao Takumi) 関東学院大学 教職課程 E-mail: iwao (at) kanto-gakuin.ac.jp Tel: 0465-32-2624(研究室直通) FAX: 042-746-1832 ********************************
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