[fpr 1703] 構造方程式と因果関係

岡本安晴


  岡本@金沢大学です。

>南風原先生の御指摘の通り,「相関がある」ことと「手がかりとして利用し
>ている」ことは区別すべきだと思います.私の以前のメールでも,統計的解
>釈と心理的な解釈は基本的には峻別すべきだ(構造方程式モデルのような例
>があるので,「基本的には」としますが)というのが,私の主張でした.

  「構造方程式モデルのような例があるので,「基本的には」としますが」
の部分が気になり、投稿しました。
 相関が因果関係を保証するものでないことは、構造方程式の場合も
基本的には同じです。相関が観測変数間の問題であり、構造方程式が
潜在変数を含むという違いはありますが、いずれも1次式で関係付け
られたもので、数式として因果関係を主張するものではないという
ことは同じです。相関での注意点は構造方程式の場合にも当てはまります。

 次の例を見てください。

 観測変数として、言語能力を測る項目が[言語1]、[言語2]、
[言語3]の3変数、身体の成長度を示す項目が[身長]、[体重]の
2変数がとられ、園児から中学生ぐらいまでのデータが集められた
とします。
 いま、この場合の正しい構造方程式は、言語能力を表す潜在変数
(言語能力)と、身体の成長度を表す潜在変数(身体成長)の2因子を
設定して
(A)   [言語1]  <−− (言語能力)
(B)   [言語2]  <−− (言語能力)
(C)   [言語3]  <−− (言語能力)
(D)   [身長]   <−− (身体成長)
(E)   [体重]   <−− (身体成長)
(F)   (言語能力)<−−>(身体成長)
であるとします。   
 このとき、潜在変数(身体成長)を除いた次の構造方程式
(A1)  [言語1] <−− (言語能力)
(B1)  [言語2] <−− (言語能力)
(C1)  [言語3] <−− (言語能力)
(D1)  [身長]  <−− (言語能力)
(E1)  [体重]  <−− (言語能力)
をたてたとき、(F)式によって、(D1)式、(E1)式の係数が
0でないので、[身長]と[体重]の原因として(言語能力)が主張される
ことになるのではと思います。

 構造方程式の場合、潜在変数の意味は観測変数との関係で推測される
もので、微妙なところがあり、上の例の問題点は明らかですが、
一般論として、構造方程式だけで因果関係を主張することへの警鐘には
なっていると思います。
 

金沢大学文学部
岡本安晴





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