MARUYAMA Takuro さんからの引用: > 例えば仮説7「同一組織で就労継続する女性と転職した女性の就労意欲レベルには差 > がない」(pp120) > に対してt検定を用いて、 > 「t検定の結果、両群間の就労意欲レベルには有意な差が認められなかった・・・ > この結果から、同一組織における就労継続女性と転職した女性の就労意欲レベルには > 差がないことが判明し、 > 仮説7が支持された」 > と結論付けています。 論文を見て,少し計算してみました。 上の例では,サンプルサイズが N1=161, N2=43 となっています。このとき, 5%水準の両側検定で有意差が得られる確率(検定力,検出力)は,母集団 効果量(2群の母平均の差を,各群共通と仮定した群内の母標準偏差で割っ たもの)の値ごとに以下のようになります。 母集団効果量 検定力 .1 .09 .2 .21 .3 .41 .4 .64 .5 .83 Cohen のいう中効果量(.5)に対しては,それを検出する確率は82%と,か なり高いですが,小効果量(.2)やそれより少し大きな .3 という程度の値 に対しては,検定力は50%以下となっています。つまり,母集団において仮 に .3 程度の効果量であらわされる差異が存在する場合でも,有意差が得ら れる確率は低く,むしろ有意差なしとなる確率のほうが高いということにな ります。言い換えれば,この場合,有意差がなかったとしても,母集団に.3 程度の効果量に対応する差異が存在していることと矛盾する結果ではないと いうことです。となると,「差がないことが判明」という表現は,やや言い 過ぎかと思います。 この場合は,データから母集団平均値差や母集団効果量の信頼区間を算出し, それを,実質的に差がないと言ってよいかどうかという観点から評価するの が良いのではないかと思います。検定だと,たとえば上記のデータの場合で もNが大きければ有意差が得られ,仮説についての結論,ひいては論文内容 が変わってきてしまいます。 ---- 南風原朝和 haebara (at) p.u-tokyo.ac.jp Tel/Fax:03-5841-3920 東京大学大学院教育学研究科 (〒113-0033 文京区本郷 7-3-1)
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