岡本@金沢大学です。 "[fpr 1711] t検定の使い方について"を実験心理学に 従事している立場から読みました。 統計的検定は、データに含まれる情報に不確かさが伴うときに 便利なものです。不確かさが無視できるときは、不要だと思います。 金沢から仙台までと東京までの距離を比べたとき、どちらが近いかを 調べるとします。実験心理学での慣例に従って何回か測定するとすると、 高精度あるいは逆に適当に大雑把な測定を行えば、測定値にはランダムな 変動を伴うはずです。金沢・仙台と金沢・東京の距離をそれぞれ20回ずつ 測定してt検定を行えば、有意に差が認められるでしょう。このとき、 t分布を用いて計算したときのp値は0ではありません。すなわち、 仙台の方が遠いという結論の第1種の過誤の確率はt検定のモデルに 従うと0ではありません。馬鹿馬鹿しくとも理論的にはそうなります。 実験心理学者にとっては、差があるかないか、ということが 問題であって、検定はデータに不確かさが伴うときに、判断の 材料の一つとして用いるものです。実験心理学者の判断の正しさの 主観的確率を統計学者は計算できるでしょうが、実験心理学者に とっては自分の判断の正しさの主観的確率というより、むしろ自分の 判断が正しいのか間違っているのかの悉無律的な問題意識の 場合が現時点では普通だと思います。従って、第2種の誤りの確率も、 そのことを問うことが当面の問題にとって何らかの意味がある場合を 除いて、あらためて問われると「何が言いたいの」ということに なるかもしれません。 >最近統計の勉強をはじめてあまりよくわからないので 実験心理学で統計学を用いるために勉強なさっているの でしたら、データのもつ不確かさと統計的分析の関係について シミュレーションで経験を積まれることを勧めます。 少々大規模なシミュレーションでも最近のパソコンでは簡単に 出来ます。 金沢大学文学部 岡本安晴
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