繁桝@駒場東大です。 t検定という仮説検定の基本についての議論を興味深く読んでいます。 結局のところ,蓋然性のあるデータからの結論ですから,結論にも蓋然性があるの は当然で,だからこそ,第1種の誤り,αを一定以下に置き,第2種の誤りβを最小化 するという決定論的アプローチに頼るわけですね。確率的評価が突然ある結論へ と飛躍するわけです。しかし、数理統計家はそれですむかもしれませんが,実際の ユーザは,それだけでは実際の適用はできません。 それで,有名な,第1種の誤りの上限を0.05とする神話が登場するわけですが,それ が通用するのは,帰無仮説検定のパラダイムの場合です。いわゆるH_0が,帰無仮説 (という頼りない仮説)ではなく,そうあってほしい研究仮説の場合は,当然,αとβ は,異なる値をとるべきでしょう。堀さんの引用された論文では、 Accept-Support(AS)の場合です。なお、これは、Haganによると,積極的仮説検定 positive hypotehsis testingと呼んでいるようです。 しかし,このような指針にしても,再び,ユーザはどうしていいかわからないかもし れません。具体的な指針として,決定論的それぞれの結果の損失を評価して,期待 損失を最小化する方策がいいと思います。(有意水準の固定ではなく,むしろ ,p値 の評価などが、関連するようになります。) このような提言は,商業的決定とは違う“神聖な“科学の方法論とはなじまないと 思われるのではないかな?このあたりのことを私なりに考えて書いたのが、「実践 としての統計学」佐伯,松原編の第4章です。この本の目立つ章は,それなりに批判 等があるようですが,私の章は何もありません。(ミスの指摘が1件と,血液型に関 する記述が公平を欠くという指摘はありましたが。) 私が書くようなことは当たり前の話なのか,あるいは,まったく,見当違いなのかの 感触を得たく,もし,興味があったら,私個人あてに感想を書いてくだされば幸です。
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