[fpr 1762] 柳井氏のコメント

南風原朝和

fprの皆様:(同報:柳井様)

だいぶ前になりますが,5月頃,岩男論文に対して柳井氏が『教育心理学
年報』に書かれたコメントをめぐって,fprでも議論になりました。今度の
教育心理学会での統計教育関係のシンポで,この議論についても取り上げ
ようと思って,読み返していたのですが,その議論の終わり頃(fpr1695
の後),柳井氏から「以下の点はもし、有用とお感じであれば、皆様に送
ってください。」というメールが私宛てに届いていたのに,転送していま
せんでした。(柳井氏には「私が中継するのも不自然なので,直接どうぞ」
と言ったのですが,そのままになっていたようです。)

「もし有用と感じるなら,転送するように」という依頼に対し,転送しな
かったとしたら,「有用と感じなかった」ということに論理的になってし
まいますので,たいへん遅くなりましたが,そのままの形で転送いたしま
す。(なお,岩男さんには直接送られているそうです。)

*** ここから

追加コメント(柳井晴夫)

説明変数{x1、x2}、基準変数(y)でX2に対応する偏回帰係数をb2とします。

このとき、次の 4  つの命題は同値(たがいにequivalent)になります。
1)b2=0
2)R(y/x1,x2)=abs(r(y、x1))(ただし、R(y/x1,x2)はy
に対するx1、x2の重相関係数
  abs(r(y,x1))はyとx1の相関係数の絶対値
3)r(y/x1、x2/x1)=0)(yとx2からx1の影響を除去した偏相関
係数=0)
4)r(y、x2)=r(y、x1)r(x1、x2)

r(y、x1)の値を正と仮定すれば、上記の4)から、b2=0、のとき、次の
不等式が導かれます
5)r(y、x2)<=r(y、x1)
6)r(y、x2)<=r(x1、x2)
7)r(x1、x2)=r(y、x2)/r(y、x1)
さらにb2=0のとき、、4)から、r(x1、x2)=0、であれば、r(y、
x2)=0、となります。5)の
関係は特に重要です。b2=0のとき、r(y、x2)はr(y、x1)より、相
関係数の値を比例定数
として小さくなっていることがわかります。したがって、b2=0のとき、yの予
測にはx1のみで
よいことは明らかですが、相関係数r(y、x1)=0.8で、とr(x1、x
2)の値が、0.7であれば、
r(y、x2)=0.56、と大きめな値になります。もし、yが英語の試験成
績、x1が試験前の
英語の勉強時間数、x2が数学の勉強時間数としたとき、b2=0であれば、
英語の試験成績の予測には、英語の勉強時間数があれば、数学の勉強時間数は
予測には有用ではなくなりますが、だからといって
数学の勉強時間が英語の成績にまったく反映されなかったと考えるのは不自然で
す。
ここで、数学(x2)と英語の試験成績(y)の回帰式を考えれば、数学を試験前
に多く勉強
したひとが、英語を上昇させた人もいるはずです。
正確には、英語の成績が一定の場合(例えば80点をとった人のグループ)には、
数学の
勉強時間は英語の成績の良否に影響を与えなかった解釈することはできます。
いずれにしろ、私が指摘したかったことは、 b2=0の場合、
r(y、x2)はr(y、x1)より小さくなることはいえますが、だからといっ
て、相関係数r(x1、x2)
の値に無関係に、x2はyの予測に無関係とはいえません。すくなくとも、r(x
1、x2)の値が
0に近ければ、必然的にr(y、x2)は小さくなることは4)式から明らかで
す。
以上より、
r(x1、x2)または、r(y、x2)の値は明記したほうが、心理学的解釈も
より正確になるという
ことですが、いかがでしょうか。

*** 柳井氏のコメント,ここまで

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南風原朝和  haebara (at) p.u-tokyo.ac.jp  Tel/Fax:03-5841-3920
東京大学大学院教育学研究科 (〒113-0033 文京区本郷 7-3-1)


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