[fpr 1774] 観測変数が1つで測定も1回で希薄化修正できるか

豊田秀樹

豊田@早大心理です


Tomokazu HAEBARA さんは書きました:
>ただ,こうした調査によって推定された信頼性も統計量にすぎませんから,
>標本が小さいときには,あまりあてになりません。また,仮に他の研究で
>信頼性が報告されていたとしても,母集団が違えばそれもまた,あまりあ
>てにならないかもしれません。

ここを読んでふと思ったのですが,先行研究で信頼性とテスト得点の分散が
報告されていて,それを利用しようとしたとき,先行研究の信頼性の値と分
散から,誤差分散を推定して,その値を利用して SEMの固定母数を決めたら
どうかと考えました.この場合は「原因を探る統計学」p199の式を使わ
ずに,直接,誤差分散を固定母数として利用します.
信頼係数は,構成概念の(真値の)分散に影響を受けますが,誤差分散は測
定機具(テスト)固有の性質と考えられ,信頼性係数よりは母集団間で安定
しています.また,それほど構成概念の(真値の)分散の変わらない母集団
なら,先行研究の信頼性を使ってもいいと思います.

本題はここからです.

>個人につき1個の測
>定値があるだけでは,原理的に言って,誤差の大きさの程度を推定するこ
>とはできません。

まったくその通りです.ただ,以下のアイデアをどう思われますか?

>こう考えると,信頼性係数として適当な数値(best guess)を入れてみて
>分析してみるというのも許されるのではないかと思えてきますが,どうで
>しょうか。

これから述べることは,かなりラディカルな(今,思い付いた)アイデアな
ので,むしろみなさんに議論してもらいたいです. 
それは信頼性係数として適当な数値を入れてみて,そ
の値(固定母数)を動かして,適合度がもっとも良くなる値を信頼性の推定
値にしたらどうかというアイデアです.固定母数を手動で動かすとは, 0.3
くらいから1.0まで,0.01刻みで全て解を求めて,一番適合のよいモデルの
固定母数から逆算された信頼性係数を,その変数の信頼性係数の推定値とし
ます.これなら手元の1つのデータだけから(先行研究なしに)希薄化修正
したSEMが作れることになります.複数の構成概念があり,その中で 1つ
の構成概念だけ1つしか観測変数が用意できなかったときなどは,とても便利
であると思います.

>“リーズナブルな範囲”でその数値を変化させてみたとき,分
>析結果は大きく変わりますか?

この質問に対する1つの具体的な答えは,拙著「共分散構造分析「応用編」」
朝倉書店p154,p155の図8.2と図8.3とを見比べて下さい.たとえば

0.371が0.440
0.203が0.276
0.165が0.207
0.266が0.287
0.528が0.634
0.442が0.572

という具合です(右が希薄化修正後)カイ2乗値も3ほど良くなっていて
固定母数を変化させても適合度は変化するので,上記のアイデアは原理的
には実行可能です.
他の変数との関係から信頼性を推定していると考えれば
観測変数が1つで測定も1回で希薄化修正できると考えても
良いような気もします.自由母数に指定すると識別不定になる固定母数を手
動で動かすということです.

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 TOYODA Hideki Ph.D.,  Professor,                Department of Psychology
 TEL +81-3-5286-3567             School of Lieterature, Waseda University
 toyoda (at) mn.waseda.ac.jp  1-24-1 Toyama Shinjyuku-ku, Tokyo 162-8644 Japan
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