[fpr 1784] きゃーるが鳴くんで

Toshio Yoshida

fprの皆様,
吉田寿夫@兵庫教育大学です。

昨日,私用で早退している間に約2年前に出した拙著の内容が
話題になっており,先程メールを見て驚いています。
豊田さん,内容が手厳しい(?)ご批判であれ,話題にしていただき,
ありがとうございました。

基本的には,既に南風原さんが書いてくださったように,
「(予測の)役に立つ相関関係」を「因果関係」と呼ぶか否か
ということがポイントかと思います(南風原さん,
わかりやすくご説明いただき,ありがとうございました)。
もちろん,(“なぜ,どのようなメカニズムで,そのような関係が
生じるのか”ということを重視する)
拙著における私の素朴な考えは“否”であり,
両者を区別して認識してほしいがために“きゃーるが鳴くんで”の
話を提示しました。
また,「現実を予測する」という観点からは豊田さんが言われている
“初歩の統計の本として大切なこととは「「きゃーるが鳴くんで雨ずらよ」
のような役に立つ因果関係を発見することが心理学でも大切である」
と述べることではないでしょうか?”ということは納得できますが,
(私のような)教育現場で介入研究を地道に(´`)やっている
「現実を(望ましいと考えられる方向に)変容させたい」という者の
立場からは,納得できかねます。

それから,今回のご指摘は,豊田さんが,関西学院大学において
開催された日心の第61回大会のラウンドテーブル・セッションで
お話しされた「現実からの要請に応じた因果モデルの構成」
ということに関連しているように思いますが,誤解ですか?
具体的に述べるならば,豊田さんは,ご発表および配布された
ご原稿の中で,「附属校通学年数」と「(ある会社における社員としての)
有能さ」の間の“附属中学校(さらには,附属小学校)から一貫して
進級してきた学生の方が有能な社員になるケースが多い”という
(観察された)相関関係を因果関係とみなすか否かということを
問題にされました。そして,「自分の子どもを附属小学校に
入学させるべきか否か」を決める親の立場で因果モデルを構成するならば
「(子どもの)知能」や「(親の)経済力」といった,
当該の2つの変数の共通原因になり得る第3の変数を考慮する必要があるが,
(自分の会社にとって有能な者を選抜したいという)人事担当者の立場では
上記のような第3の変数を考慮する必要はないと論じられました。
そこで,あのとき私は,(確か)一般に心理学の研究は
人事担当者の立場よりも親の立場からなされているのではないか
(ないし,なされるべきではないか)という質問をし,それに対して
豊田さんは,“そうとは思わない”というような回答をされたように
記憶しております。そして,今,改めて考えますと,
人事担当者と親のどちらの立場でもなく,「有能な人材を育成する
(どうしたら有能な人材を育てられるか?)」という教育実践的な(?)
立場ないし観点も存在し,そのような観点からは,やはり
「知能」や「経済力」といった変数は統制する必要があると思います。
そして,私は,基本的には,このような立場に立って研究をして
いるように今回内省しました。
話がずれてしまっていますか?

それから,以下の部分を,もう少し詳しく説明して
いただけないでしょうか?
特に,“カラクリ”という言葉は,どういう意味で
使われているのでしょうか?
お時間が許せば,お願いします。

>もちろん「カエルが鳴く」は五感に関する観測指標としてメカニズム
>に組み込みます.そしてそれを含む全体のシステムを因果関係と呼び
>ます(もちろんカラクリとしてです.そもそも「気圧」も構成概念と
>しての暫定的な指標に過ぎません).心理学の意味ある成果は(実験
>も調査も)大方(全て?)このようなカラクリに基づく主張です.

なお,「この部分に限らず,吉田さんの因果関係観は1950年代の米国の行
動科学の教科書からそのまま持ってきたような直輸入の印象があります.」
ということについてですが,結果的にはご指摘のようになっている
のかもしれませんが,少なくとも「直輸入」などをしているという認識は
ありません。統計学の専門家ではない私は(また,自己防衛になって
しまうかな?),1950年代の米国の行動科学の教科書を読んだことは
ありません。ユーザー・統計の実践家および(教育・社会)心理学者として
肌で感じ,考えてきた(現場でたたき上げてきた)ことを中心にして
素朴に論じたつもりです。
ただし,正直なところ,直接読んではいなくても,私が読んできたのは
おそらく1950年代の米国の行動科学の教科書に強い影響を受けた和書が
ほとんどですから,統計学の専門領域における新しい考え方などは
考慮できておりません。
したがって,新しい考え方に基づいたご示唆,非常にうれしく思います。
そして,ともあれ,今回のご批判により,今までよりも(自分としては)
多少なりとも深い思考をすることができた(&これからもしようとする)
と思っています。
ありがとうございました。



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