[fpr 1792] きゃーるが鳴くんで

Hiromichi HOSOMA

細馬宏通@滋賀県立大学です。コミュニケーション論をやっております。
このMLでは初投稿ですが、
豊田さんの相関の捉え方にひかれて出て参りました。


■因果関係と相関関係は区別すべきか?

ぼくは、「因果関係」と「相関関係」の間には南風原さんの書いて
おられるような区別が必要だと考えております。

豊田さんは主に診断や計測などによる「予測」についての問題を
扱っておられると思いますが、予測とは、観察可能な現象どうしの
「相関関係」を拠り所に行なうのであって、予測をもたらしている
のは、「相関関係」にある二つの現象の観察時刻のずれ、もしく
は、観察のしやすさの差であると思います。

観察時刻のずれや観察のしやすさの差は、必ずしも因果関係と一致
しません。たとえば、因果関係から言えば病因は症状に先行するは
ずですが、観察時刻から言えば、症状が病因に先行する(たとえば
症状をもとに血液検査をすると病原菌が見つかる)といったことは起こ
りえます。一致しないからこそ、観察時刻のずれや観察のしやすさ
の差と、因果関係とは、区別してかかる必要があると考えます。


■予測にとって因果関係とは?

南風原さんは
>>この問題で「因果関係」と呼んでもよいと思われるのは,
>>
>>(1) 気圧の変化 → 気圧計の針の振れ
>>(2) 気圧の変化 → カエルの鳴き
>>(3) 気圧の変化 → 降雨
>>
>>の3通りではないかと思います((2)のほうはそういう因果関係が
>>あるかどうか,私にはよく分かりませんが)。
>>
>>(1) と (2) のそれぞれ結果側の「気圧計の針の振れ」と「カエ
>>ルの鳴き」は,「降雨」の予測に役立つ可能性のあるものです
>>が,それら自体が原因となって「降雨」が引き起こされるという
>>メカニズムは考えにくいので,
>>
>>(4) 気圧計の針の振れ → 降雨
>>(5) カエルの鳴き → 降雨
>>
>>は因果関係とは呼ばないほうがよいと思います。(4) と (5) は
>>形式的には同じ「相関関係」です。それぞれが予測にどれだけ
>>有用かは,(1) と (2) の因果関係の強さ,言い換えれば,「気
>>圧の変化」の観測指標としての「気圧計の針の振れ」と「カエル
>>の鳴き」の妥当性によります。

と書いておられますが、これは因果関係の全体像がすでに明らかに
なっているからこう言えるので、因果関係が明らかでない者から見れば
とりあえず、

(5') カエルの鳴き − 降雨

の相関関係が明らかになっており、カエルの鳴きが降雨に先行
するならば、降雨の予測にはじゅうぶん有用だと思います。ここで言う
「有用」さは、後で書くように、観察にかかるコスト/利益の問題だろう
と思います。

ただし、因果関係が予測にとって不要だと言いたいのではありません。
因果関係の探求は、(予測重視の立場から見れば)
予測に関わる現象や相関関係のレパートリーを
増やしていく探索的な行為であり、その意味で有用だと思います。


■誰による誰のための予測?

ことばはさておき、
相関関係や因果関係が「役に立つ」(有用性がある)かどうかを考える場合、
豊田さんの話には
相関する二つの現象を観測するのにかかるコストとそれによって得
られる利益のバランスはどれくらいか? 
そもそも予測を行なう者(あるいは予測結果を使う者)にとって、
何が利益で何がコストなのか?
という重要な問題提起が含まれていると読みました。
(きゃーる予報と気圧計による予報では、どちらがコストが高いか?精度は?
枝につるしたラジオが流す予報ときゃーるの声はどちらが気持ちいいか?など。)


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細馬宏通(ほそまひろみち)
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