[fpr 1807] 一網打尽

豊田秀樹

豊田@早大心理です

Tomokazu HAEBARA さんは書きました:
>これまでの議論で,研究の進め方として出てきたのは,
> (1) 観察(調査・相関)研究でZの(線形の)“影響”を除いた偏相関を
>     とる「パーシャルアウト」
> (2) Zの値をひとつに固定して,XとYの関係をみる「固定」
> (3) Xの水準に被験者をランダムに割り付ける「ランダム割付」
>の3通りかと思います。
>どの場合も,被験者はある母集団からのランダムサンプルであることも,便
>宜的なサンプルであることもあります(現実には,たいてい後者)。

少なくとも(1)(3)をまとめて「現実には,たいてい後者」と,いっしょに
括ってしまってはいけません.そもそもランダムサンプルには金がかかり
ます.だから簡単には出来ません.しかし調査研究者は(fprのメン
バーでは,選挙予測や内閣支持率や進学適性研究....)がんばってランダム
サンプルを集めます.RDDのようにランダムサンプルの費用を10分の1に
するような方法も編み出します.割り当て法のように,経験的にランダム
サンプルに匹敵する方法も在ります.また区・市・学校に母集団を限定して,
ランダムサンプルをし易くもします.調査研究は,確かに「ランダムサンプルで
あることも,便宜的なサンプルであることもあります」が,ランダムサン
プルを念頭において,必死にがんばります.

しかし「ランダム割付」の実験研究はランダムサンプルを「全く」念頭に
置きません.たとえば病因に来る患者をランダム割付しているだけです.
(本当は「ランダム割付」すら怪しいのですが,本論から外れるのでそれは
仮定します)メンタルローテーションのような心理実験をするときに,乱数
サイをもって役所の選挙人名簿を調べに行くような実験研究者はまずいませ
ん.研究方法にそのような文化が,端からないのです.「ランダム割付」の
実験研究の場合は便宜的にもランダムサンプルではないのです.
便宜的にも,です.必死に努力する調査研究との一番の違いです.したがって

>(3)は(高野陽太郎さんの言葉を使え
>ば)その他あらゆる変数について「一網打尽に」影響を除こうとする

は完全に過大評価です.高野陽太郎さんにとっては我田引水です.
たとえば大学内の学生に実験をお願いしてランダム割付だけして,
「その他あらゆる変数について「一網打尽に」影響を除」けるはずがない
ではありませんか.たとえば「年齢」や「年収」や「知能」の影響を
どうやって「一網打尽に」除くのですか?

調査研究にはランダムサンプルを念頭におく研究文化が在ります.
「ランダム割付」の実験研究にはランダムサンプルを念頭におく,研
究文化が在りません.したがって

>(3)ランダム割り付けは因果関係を確認するには不十分である.
>因果に迫るためには,実験に参加しなかった被験者
>で成立つかを実質科学的に考察しなければならない.

となります.(3)の立場で堂堂とランダム割り付け実験をすれば良いのです.

話しは変わります.「ステレオタイプ」や「偏見」は,知的には理解
していても感情的に拭い去れない不合理な信念です.

吉田@兵庫教育大学さんは書きました.

>以上のようなことは十分に(ある程度は?)認識しているつもりです。
中略
>心理学の研究におけるどのような方法も1つの攻め方であり,
>かつ,通常,構成概念を相手にしていることや,
>多くの変数が複雑に絡み合っているであろうことなどから,
>問題のない方法などはあり得ないと思っています
中略
>曖昧な論になってしまうかもしれませんが,ある変数Xが
>別の変数YにX→Yという方向で影響を及ぼす(ないし,及ぼしている)
>ことを確認していく上での統制研究と観察研究の長所・短所を
>秤に掛けた場合,私としては,やはり,統制研究の方が better では
>ないかと考えています。

小生の3分類を論破せずに,こう結論づけるのは
「白人と黒人には,それぞれ善人も悪人もいることは認識しているつもりです.
人種で「善人と悪人」と分ける考え方は,考え方として有り得ないと思っていま
す.しかし曖昧な論になってしまうかもしれませんが,やはり白人のほうが善
人だと思います」という,固定観念と構造がいっしょです.
それぞれが,役割の違う道具なのです.カンナ・ノコギリ・サシガネ
のどれが, better かと断じること,そのものが誤りです.

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 TOYODA Hideki Ph.D.,  Professor,                Department of Psychology
 TEL +81-3-5286-3567             School of Lieterature, Waseda University
 toyoda (at) mn.waseda.ac.jp  1-24-1 Toyama Shinjyuku-ku, Tokyo 162-8644 Japan
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