東京大学医学系研究科 生物統計学/疫学・予防保健学教室の吉村と申します。 このメーリングリストでの発言は初めてとなります。 私は、研究分野としてSEM/LVやQuality of Lifeに興味を持っておりまして、 いつも大変有用なご意見・議論を拝見させていただいておりました。 一連の議論で、 1) ランダムサンプリングによる外的妥当性(一般化可能性)の保証 2) ランダムアロケーションによる内的妥当性(比較可能性)の保証 についてですが、この2者は完全に別個に考えなければならないと思います。 南風原先生が >(3)は(高野陽太郎さんの言葉を使え >ば)その他あらゆる変数について「一網打尽に」影響を除こうとする と発言されたことについて 豊田先生が、 >は完全に過大評価です.高野陽太郎さんにとっては我田引水です。 >たとえば大学内の学生に実験をお願いしてランダム割付だけして, >「その他あらゆる変数について「一網打尽に」影響を除」けるはずがない >ではありませんか.たとえば「年齢」や「年収」や「知能」の影響を >どうやって「一網打尽に」除くのですか? と発言されましたが、 南風原先生がここで「一網打尽」にしたのは内的妥当性に関しての 第3の要因の影響であると私は解釈しました。 たしかに外的妥当性の点では、何ら保証されません。 しかし、内的妥当性(比較可能性)が保証されれば、 それで十分であると思います。 また、豊田先生が、 >しかし「ランダム割付」の実験研究はランダムサンプルを「全く」念頭に >置きません.たとえば病因に来る患者をランダム割付しているだけです. >(本当は「ランダム割付」すら怪しいのですが,本論から外れるのでそれは >仮定します) と発言されておりました。 生物統計学においては、外的妥当性と内的妥当性(比較可能性)のうち、 内的妥当性を重要視いたします。 それは、この分野においては1つの研究(実験)で全ての「かた」をつけるとは 考えていないからです。 通常、われわれが携わっているような薬剤の認可に関わる臨床試験では、 (特定の病院に)来院される患者にで対象基準をみたすものに対して、 (性・年齢・施設などの)因子により層をつくり、ランダム割付を行います。 しかし、これはあくまでも内的妥当性を保証するための手段になります。 外的妥当性に関しては、 その後(認可後)に行われる市販後臨床試験や 実際の臨床の場で行われる投与による情報をもとに、 適用外の(臨床試験では対象とならなかった)患者に対する情報や 臨床試験の規模では集めることのできなかった毒性(副作用)情報を 集めることによって保証していきます。 また豊田先生が、 >メンタルローテーションのような心理実験をするときに,乱数 >サイをもって役所の選挙人名簿を調べに行くような実験研究者はまずいませ >ん. と発言されておりましたが、 内的妥当性(比較可能性)を確保するのであれば、 乱数サイは言い過ぎの節があるものの 乱数表により割付けられた割付表を持参して、 選挙人名簿に当たるべきであると思います。 ---------------------------------------* 吉村 健一 Yoshimura Kenichi 東京大学 大学院医学系研究科 生物統計学/疫学・予防保健学教室 Department of Biostatistics / Epidemiology and Preventive Health Science, School of Health Sciences and Nursing, Faculty of Medicine, University of Tokyo 〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学 医学部3号館別館 e-mail: yoshimura (at) epistat.m.u-tokyo.ac.jp telephone: 03-5841-3520 (内線23520) ------------------------------*
ここは心理学研究の基礎メーリングリストに投稿された過去の記事を掲載しているページです。