[fpr 1817] 一網打尽

豊田秀樹

豊田@早大心理です

fpr1805において

Tomokazu HAEBARA さんは書きました:
>(3)は(高野陽太郎さんの言葉を使え
>ば)その他あらゆる変数について「一網打尽に」影響を除こうとする

という記述を読んだ時にはすこし驚かされました.南風原さんまでが
高野さんのように(無作為抽出しなくても無作為割り当てしていれば,
その他あらゆる変数について「一網打尽に」影響を除ける)と主張し
始めたのかと心配したからです(正しくは,無作為抽出と無作為割り
当てを組み合わせると,その他あらゆる変数の影響は「一網打
尽に」誤差項に組み込まれ,「一網打尽に」した分だけ実験の精度
が下がる.です.).でも,そうではないのですね.

fpr1809の主張は理解できます.ただ,「本当にわかりやすい(中略)
初歩の統計の本」のような初心者教育の議論をしているのですから

>> 調査研究にはランダムサンプルを念頭におく研究文化が在ります.
>> 「ランダム割付」の実験研究にはランダムサンプルを念頭におく研
>> 究文化が在りません.
>というのも事実だと思います。

と賛同なさるのでしたら,

>−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
>                   ランダム割付あり  ランダム割付なし
>−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
>ランダムサンプル       タイプA           タイプB
>−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
>便宜的なサンプル       タイプC           タイプD
>−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

タイプAとタイプCは,心理学実験において実際上ほとんどない
という立場を取るべきであると思います.

そうしないと
「便宜的」な無作為抽出のお陰で
「便宜的」には,その他あらゆる変数について「一網打尽に」影響を除けて
「便宜的」に研究方法の「王道(高野さんの表現)」である
あるいは
「便宜的」に「因果関係の推論に関しては有利な状況が作られる(fpr1793)」
というもってまわった結論になるからです.

まず実験心理学者は,便宜的にも無作為抽出などしていないという前提
に立ちます.次に,たとえばメンタルローテーションを例に取ると「
年齢」や「年収」や「知能」の影響は,研究が想定している変数のレン
ジでメンタルローテーションに決定的な影響は与えないことが著者・査
読者・専門読者の間で,実質科学的に納得・了解されているという立場
を取ります.ポイントは統計学で保障しているのではない,ということです.
そして納得・了解できない変数が登場してきたら,もう1回実験するので
す.一網打尽されているはずだなどと,うそぶいていてはだめだと言う
ことです.

むしろ「本当に(中略:この書名は吉田さんが付けたのだろうか?)初
歩の統計の本」のような学生向けの基本書では以下ように教えるべきです.

>因果関係を確認するには統計的方法だけでは不十分である,
>ことを,まず教えて,色々な方法の長所と短所をバランスよ
>く論じるべきです.相関も統制もランダム割り付けも因果関
>係に迫るための,それだけでは不十分な役割の違った道具・
>武器なのです.

ランダム割付だけを特別にbetterだといっては,いけません.

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 TOYODA Hideki Ph.D.,  Professor,                Department of Psychology
 TEL +81-3-5286-3567             School of Lieterature, Waseda University
 toyoda (at) mn.waseda.ac.jp  1-24-1 Toyama Shinjyuku-ku, Tokyo 162-8644 Japan
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