南風原です。 高野陽太郎 2000 因果関係を推定する−−無作為配分と統計的検定 佐伯 胖・松原 望(編)実践としての統計学 東京大学出版会 Pp.109−146 に,「では,なぜ,無作為配分をやるだけで,個体差に由来する干渉変数を 一網打尽に統制することが可能になるのだろうか?」(129-130頁)という問 いがあり,それに対して,「無作為配分を行なうと,統計的検定の威力を最大 限に利用して,干渉変数の統制を行なうことができるから−−というのが,そ の答である。」(130頁)という答が与えられています。 一方,豊田さんの[fpr1821]には, > 統計学にストイックに,実質科学に重きを置くなら,ランダム抽出をしないラン > ダム割付け実験は,厳密にはランダマイゼーション検定のメリットしか享受でき > ない.手元のデータには統計的に有意差が見られてももう一度別のデータを取っ > た場合のことは,厳密には統計的には何も言えない.だからと言って実験は無意 > 味なのではなくて,1つの動かぬ実例として,実質科学的な考察の有力な論拠と > します とあります。 どちらも検定との関係でランダム割付のメリットを述べていますが,私なら 高野さんの「なぜ」の問いには,「サンプルにおけるさまざまな個人差変数 (干渉変数)と,研究の主眼である独立変数とを(近似的に)無相関化・直 交化することができるから」と答えたいところです。この「干渉変数との無 相関化」と,「検定のための確率化」という2つの側面が,ランダム割付に はあると思います。豊田さんは,そのうち後者だけをメリットとして挙げて おり,高野さんは(上記の文はともかく)その両者をメリットとして挙げて います。 サンプルサイズとの関係で考えると,「無相関化」は,Nが大きいほど,そ れがより完全に達成され,干渉変数の影響の心配が減ってきます。一方,「 確率化」に基づく検定は,Nが大きいとたいてい有意差が得られるようにな り,積極的な証拠としての意味をほとんどもたなくなります。 ランダム割付の2つの側面のこの対照的な性質は,両側面を明確に区別して 考えたほうがよいということを示唆するとともに,「干渉変数との無相関化」 のほうが本質的に(実質科学的に)より重要な性質であることを示唆してい るのではないかと思います。 ---- 南風原朝和 haebara (at) p.u-tokyo.ac.jp Tel/Fax:03-5841-3920 東京大学大学院教育学研究科 (〒113-0033 文京区本郷 7-3-1)
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