繁桝@駒場東大です. 確率化の話になる前に話題になっていた因果関係については決着がついたのでしょ うか.興味深い話題なので雑感を書きます. (A)かえるが鳴く(のを聞く)と雨が降る. (B)気圧が低い(のを気圧計で観測する)と雨が降る. (A),(B)ともに、データによって,たとえば、かえるが鳴く場合とない場合に雨が 降る確率は違うことは確かめられたとします.すなわち、このふたつの命題は,相 関関係ではあることは確かめられました (としましょう). 問題は,両者とも因果関係なのかどうかです.因果関係を,操作する変数の値の違い によって変化があるかどうかというふうに捉えると、(A),(B)ともに,失格ですね .(将来は気圧そのものを操作できるかもしれないけど). 可能性があるのは,上記の命題を含むネットワークとしての理論(頭の中の構成物 )において,上記命題を因果関係として認めるかどうかになります. もし、(A)と(B)が属する理論が異なる理論ならば,どちらの理論が,(その理論の 複雑度はほぼ同じとして)より多くのデータを統括的に説明できるかによって,優 劣を決めることができ,たとえば,( B)の理論が優位にあるならば,(B)のみが因 果関係であるということもできそうです. しかし、(A)(B)の場合,よって来る所以はいずれも普通の自然科学の理論だと思 います.そして,自然科学の場合は,フロイドの理論vsユングの理論というような 対立は起こっていない.理論の優劣によって,(A)(B)を区別するのは無理です. もし、(A)(B)に区別があるとすれば,同じ理論を記述するためには,できるだけ簡 約な表現が良いというプリンシプルが関係するのではないでしょうか.この点で, (B)のほうがベターであるように思います.気圧の測定手段として,かえるの鳴き 声を考えるのには無理があり,理論体系としては,また,この命題を説明するために 別の命題を必要としそうです. 心理学における理論は,自然科学と同じプリンシプルでよいのかどうかも大問題で すが,上記(A)(b)の場合は,記述対象が自然現象であり,以上のように考えました.
ここは心理学研究の基礎メーリングリストに投稿された過去の記事を掲載しているページです。