岡本@日本女子大学です。 「[fpr 1962] Re: 因子得点の合計点?」楽しく読ませて頂きました。 体重、身長など具体的事物の世界とそれらと対応付けられた数値の世界、 これらの対応は部分的であるため、解釈する人間の側に、しばしば問題を ひき起こします。 重さは単位を決めると数値との対応がつきます。この対応は加算という 操作も含んでいます。1gと2gを一緒にすると3gの重さになりますが これは1+2=3という数値の側の加算という操作と対応しています。 長さの方も同様です。依然、心理学で長さの基本概念のことを扱うのか といってらした元物理学者(NACSISでチェックした結果、そのように 判断しました)がおられましたが、具体的事物と数値との関係を 扱うmeasurement theory(数理心理学の一分野)では長さや重さを 例にして説明することが多いのです。 しかし、1gの1と2mの2を加えた3に対応する1g+2mの 事物は存在しません。すなわち、数値の世界での操作が常に事物の 世界での操作と対応しているのではありません。 因子分析や主成分分析も、事物の世界の統計学的表現です。つまり、 調査対象を数値の世界で表したものであり、その表し方が統計学的モデル、 すなわち、因子分析などの形をとります。事物の世界の関係がどの程度 うまく統計学的世界に表現されているかは、事物の責任ではなく、 その表現を採用した分析者の責任です。分析者はまた、統計学的世界における 操作が事物の世界における操作とうまく対応しているかどうかを意識する 責任があります。 もっとも、事物の側に対応する操作がないからといって、数値の世界での その演算が否定されるわけではありません。数値の世界での自由な演算は 事物の側での新しい発見を引き出すという考え方もあります。ただ、 機械的に、数値の世界での操作を常に事物の世界に求めるのは問題をひき 起こす、別の言い方をすれば、統計学的性質が良いからといって事物の世界で その操作が意味をもつとは限らない、ということになります。 鈴木さんは、「数字をいじくり回すだけの分析は困る。」とおっしゃり たいんでしょうね。 日本女子大学心理学科 岡本安晴
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