岡本@日本女子大学です。 「[fpr 1968] Re: 因子得点の合計点+発想の転換」を 読んで、現場の問題として現実的なレスだと思いましたが、 今朝の予定の都合で中途半端な時間が空いているので、 書いてみました。 「現場」と「理論」の関係としては、なにも今回のように データ分析法の理論的妥当性の問題に限らず珍しいことでは ないと思います。有名な例としては、量子力学における 数学的手法の問題があります。数学的に問題のある手法で 理論が展開されていたものが、後に数学的に正当化されて います。また、理学部の学生であったときの記憶では、 ある教授が「数学的には認められない方法であるが、 この方法で解きます。」と説明されたことがあります。 この他にも、自然科学で実際に使われている数学的手法の 妥当性が、高校で習う数学と合わないことがありました。 以前、数理心理学のテキスト(専門書?)を数学的展開の 妥当性に気をつけて読んだことがありますが、結構変なのが ありました。論理的におかしい、形式的には誤りという意味です。 「現場」と「理論」の間には常に緊張関係があり、それが 必要だと思います。理論の側からは、使われている手法の 理論的根拠を示し、用いられた分析手法を理論的に評価する ことは必要だと思います。現場からは、役に立つ方法として 開発された手法、しかし、理論的根拠は未だ考えられていない ものについては、理論的サポートは無いが役に立つんだという 主張がなされるでしょうし、理論家にはその正当化が求められる ということだと思います。現場で開発された手法の理論化は、 直ちに既成のものの適用で可能な場合もあるでしょうが、 時間が掛かると考えるのが妥当だと思います。これだけ有用 なんだという現場からの圧力が強まれば、理論家の動きも 速くなると思いますが。理論化は、その手法の特性を明らかにし、 とんでもない誤用を防ぐためにも必要です。 理論と現場の緊張関係は、学生を指導するときには 矛盾のバランスに悩む一因にもなり、いずれかに 立場を決めるわけにもいかず、学生の質問に窮する ことになります。 日本女子大学心理学科 岡本安晴
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