[fpr 2488] 因子分析と回転

南風原朝和

南風原です。

前回[fpr 2478]において,堀さんの推論

> (1')バリマックス回転の初期解からの回転角度が大きくて単純構造
> を得られた場合は,その事自体が斜交解が正しいことを示している。

に対して,反例になると思われる数値例を提示しました。それに対して,

> 反例といえば反例ですが,計算上の問題と言えるでしょう。

というコメントをいただきました。固有値の大きさが近すぎる例だったの
で,そこに注意が向いてしまったのだと思いますが,固有値の大きさが
もっと異なる例も生成できます。しかし,新たな例を提示するより,私が
どのように考えてあの例を作ったかをご説明するほうが生産的でしょう。

私はまず,上記の推論は「因子が直交している場合でも,バリマックス回
転の初期解からの回転角度が大きい場合がある」ことが示されれば反証さ
れると考えました。そのとき直観的に思ったのは,「同数の変数が2つの因
子に分かれ,それぞれ対応する因子に同じ大きさの負荷をもっているケー
スでは,それらの因子が直交していても斜交していても,第1主因子は寄与
の最大化を達成するために,その2つの因子ベクトルの方向のちょうど真中
を向くベクトルになる」のではないかということでした。

しかし,この2つの因子が完全に直交している場合には,第1主因子と第2
主因子が同じ寄与(固有値)をもつことがわかり(このことは簡単な作図
と計算で確認できますし,柳井さんも一般的な形で証明を与えていま
す),初期解アルゴリズムによっては第1因子としてその真中方向の因子で
はなく,2つの因子のどちらかと同じものが選ばれて初めから単純構造にな
る(回転角度がゼロになる)場合があることが分かりました。それこそ
「計算」の問題なのですが,完全に直交している例は反例としてはやや脆
弱な面があるわけです。

2つの因子が少しでも斜交していればそのような問題は生じないので,少し
だけ斜交している例を反例として提示しました。そのとき,できるだけ直
交に近いもののほうが反例として意味があると思い,因子間相関が .01 
というケースを選んだということです。因子間相関をもう少し大きくし,
結果的に固有値の差が大きくなるようにしても,同様な例が作れます。し
たがって,計算の問題とは関係なく,「因子がほぼ直交している場合で
も,バリマックス回転の初期解からの回転角度が大きい場合がある」とい
うことは示せるということです。

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南風原朝和  haebara (at) p.u-tokyo.ac.jp  Tel/Fax:03-5841-3920
東京大学大学院教育学研究科 (〒113-0033 文京区本郷 7-3-1)


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