[fpr 2516] 調査と実験

Tomoya MASAKI

村上宣寛 先生

ご研究結果の速報をどうもありがとうございました。
先週は途上国にてメールを拾えず、お返事が遅れ申し訳ありません。

| -----Original Message-----
| From: owner-fpr (at) nuis.ac.jp [mailto:owner-fpr (at) nuis.ac.jp] On
| Behalf Of murakami (at) edu.toyama-u.ac.jp
| Sent: Wednesday, December 17, 2003 2:40 PM
| To: fpr (at) nuis.ac.jp
| Subject: [fpr 2511] Re: 調査と実験

<snip>

| 児童の(行為障害に近い)攻撃性を測定し、介入研究を行った研究です。
| 基準関連的方法で攻撃性尺度を作成し、実験群と統制群を用いた研究計画で、
| アサーション・トレーニングによる攻撃性の適正化教育を試みました。

介入評価のための尺度作りとその妥当性検討のうえでの大変貴重な
ご研究と思います。この尺度が測定しているものが、今回施された
介入(10時間のアサーション・トレーニング)の効果のどのような
部分を計測しているのかにも、大変興味を持ちました。

| しかし、攻撃性の高い児童には効果がありませんでした。

投稿末尾の以下の記述からそのように考察されておられるように
お見受け致しましたが、この点若干コメントさせて頂きます。

| 両群の児童攻撃性尺度得点の平均値が事前,事後で有意に変化したかどうか
| をみるためにt検定を行った結果,実験群においてのみ,事前,事後で有意差
| が見られた。そこで,実験群の介入教育の事前の攻撃性尺度得点のどの範囲
| の児童の平均値が有意な上昇を見せたのかを分析するために,研究Iでのデー
| タ(平均値6.44,標準偏差3.19)を基に,尺度得点の高得点群(10点〜13点)
| ,中得点群(4点〜9点),低得点群(0点〜3点)の3群に分けた。実験群,統制群
| の事前,事後の攻撃性尺度得点の平均値の比較を3つの群ごとにt検定で
| 分析した結果,実験群の低得点群のみが,有意な変化があったことがわかった。

効果がなかったと判定されたようですが、以下の観点から
考えると単純な前後比較の差とその有無から、真の介入効果
(介入との因果関係)の有無について判断するのは困難と
考えました。

・実験前値の計測時期が異なる(4月上旬と6月中旬)ことや、
 選ばれた比較各群の背景因子の違いによる影響
・未知の交絡因子による影響
・平均への回帰(一般に前後比較を行う場合、もともと得点の高い
 ものは低い側へ、低いものは高い側に回帰し易い傾向がある)

即ち、前後比較の有意差の有無から間接的に群間の比較を
行うのではなく、はじめから群間比較を前提としたデザイン
を導入しなければ、真の介入の影響はわからないと思います。

とはいえ、この点は、教育の現場でいかにランダム化を施した
群間比較のデザインを適用し得るかという、今後の課題と理解
した次第です。

上に示した比較上の問題点は、いずれも実験群と統制群を
ランダム化するデザインを用いることにより回避可能です。
しかし、教育現場においていかにそのようなデザインの
実施が可能か、また、倫理面も含めた対応が可能であるか、
という実施可能性の問題に帰着するものと考えます。

教育現場においては、介入(教育指導等)を教室などの単位で
しか施せないという制約があり、また、その介入が被験者側に
明示的にわかってしまうといったバイアスに繋がる制約もある
でしょう。それらを同時にマスクしたうえでランダム化する
ことは、実際上困難であろうことは容易に想像できます。
その場合、どこまでそれに変わり得るデザインが適用可能か
を考えることになろうかと思います。

完全な二重盲検法(介入を施す側と受ける側の双方が、介入を受
けているか否かわからなくするデザイン)によることができない
場合、例えば、薬効評価の初期段階で利用されるクロスオーバー
法(双方に同じ介入を施すがその順序を入れ替える)などを応用
することは可能かもしれません。この方法によれば擬似的な群間
比較が行え、同時に、倫理面(教育介入を受けた群と受けない群
が生じる問題)への配慮も行えることになるでしょう。

順序の違いによる、介入の持ち越し効果についても勘案する必要
があるので、作成した尺度がどの時点のどの効果を捉えているか
についての検討も必要になろうかと思われます。

fpr に投稿するにしては、釈迦に説法とは思いましたが、
取り急ぎ、所感としてコメントさせて頂きました。
教育分野の門外漢にて、無知非礼なる点ご寛容ください。

今後とも宜しくお願いします。

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東京大学大学院 国際保健計画学(客員研究員)正木朋也
〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1
TEL: 03-5841-3688 FAX: 03-5841-3637
email: masakit-tky (at) umin.ac.jp



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