[fpr 2704] 掛け捨て・特約へのひとりごと

豊田秀樹

豊田秀樹@早稲田心理です.

保険のTVCMの中の商品説明には「この商品は『掛け捨て』じゃないんです」
という主旨の台詞がしばしば入ります.いかにも『掛け捨て』は悪いことである,
悪いに決まってるじゃないかと言わんばかりの問答無用の価値評価のセリフです.

しかし10年間無事故ボーナスといっても,所詮は自分が払ったお金の中から
支払われるわけで,保険の性能が上がるわけではない.『掛け捨て』は「安心を
買う」という保険本来の機能を純粋にあらわした商品なので安くて消費者のメリ
ットは大きい.逆に保険会社は扱うお金の額が少なくなるので都合が悪くなる.
ボーナス部分は外交員さんやオフィスの維持費を引いたの残りだから,それをな
くせば,ボーナス以上に支払い保険料は安くなります.

だから「何故悪い」という理由を言わずに(悪くないのだから,そもそも言えない
のだが)とにかく,悪いことである,悪いに決まってるじゃないかという演出に沿
って「この商品は『掛け捨て』じゃないんです」という台詞をTVCMで言い続け
る.それは保険会社から消費者に対する一種のマインド・コントロールなのだと思う.
そういえば,消費者側からは評判の悪い「併売」という企業側のマーケティング用
語を使わずに「特約」という言葉を多用している.これも同様のマインド・コント
ロールの一種だと思う.

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「プレジデント」誌で連載してます
 http://www.president.co.jp/list/author/9e8851f654749e2c4ec3ab4b88489dd7.html
 TOYODA Hideki Ph.D.,  Professor,                    Department of Psychology
 TEL +81-3-5286-3567  School of Letters, Arts and Sciences, Waseda University
 toyoda (at) waseda.jp            1-24-1 Toyama Shinjyuku-ku, Tokyo 162-8644 Japan
 http://www.littera.waseda.ac.jp/faculty/tyosem/index.html
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