[fpr 2724] 統計学の利用と証明

Yasuharu Okamoto


 岡本@日本女子大学心理学科です。

 柳井さんのメール[fpr 2722]に対するコメントです。
本メーリングリストの多くの方々にとって関心のある問題ではと
思っております。

 Stenvensのsyntactics, semantics, pragmaticsの区別に
関連した問題です。ここでは特に、syntacticsとsemanticsに
ついて取り上げます。

 StevensのHandbook of Experimental Psychology, 1951のp.2に
syntactics、semanticsとpragmaticsの区別が以下のように説明されて
おります。

1. Syntactics is the study of the relation of signs to signs.
2. Semantics is the study of the relation of signs to objects.
3. Pragmatics is the study of the relation of signs to the users of signs.

 柳井さん[fpr 2722]の

>ですが、この変更、すなわち、
>「xとzの相関係数」を「xのzに対する標準回帰係数」に、
>「xとyの相関係数」を「xのyに対する標準回帰係数」に
>変更することの意味は重要です。

は、semanticsの観点からの評価だと思います。ここでの
「変更することの意味は重要」だという評価は、syntacticsにおける
問題ではなく、統計モデルの解釈というsemanticsの問題として
出てくることだと思います。
 計量心理学の研究者の中には、syntacticsの観点に偏っている
という印象を受ける人たちがいます。10年ほど前、数量化あるいは
双対尺度法の考え方に基づく展開法に興味を持っていたとき、
数式として表面的に同じだからという偏ったsyntactics的基準で
contributionがあるかどうかがの判断が行われていることに
驚いたことがあります。しかし、今回のメール[fpr 2722]で
semanticsの観点も強調されることがあることを知りました。


>なお、上式《《0》式)の証明は 良く知られていますので、ここでは書きません。
>もっと一般的証明をあたえておきます。

 [fpr 2722]における一般的な証明において用いられている数学的な事柄は、
ベクトルの直交分解ですが、これは次元に依存しない(1次元から無限次元まで
通用する)概念ですので、syntacticsの観点からは特に目新しさはありません。


>射影行列に関心のある方は、自書で恐縮ですが、
>
>柳井晴夫・竹内啓(1983)射影行列・一般逆行列・特異値分解、 東大出版会
>
>をご覧いただければ、幸甚です。


 上記書物(柳井ら(1983))は、ここでの議論の流れの中ではsyntactics
およびsemanticsの両方の観点から不適切です。
 そもそも式(0)は、共分散構造モデルを話題にした中で出てきたことです。
共分散構造分析(最尤法を用いる場合)では、確率変数のベクトル空間を
考えることになりますが、柳井ら(1983)では有限次元の行列が扱われて
います。すなわち、柳井らの議論は、所与のデータの分解に関するものです。
これに対して、最尤法を用いる共分散構造モデルでは、確率変数の空間を
想定しているので、無限次元での確率変数の直交分解を考えていることに
なります。したがって、柳井らの射影行列の議論を、確率変数の空間に
持ち込むことはできません。故に、Syntacticsの観点から不適切です。
 また、柳井らの議論は記述統計に分類されるものですが、
(最尤法を用いる)共分散構造モデルは確率モデルに基づく推測・
判断です。
 以上の意味で、ここでの当初の問題提起[fpr 2699]に対して、柳井らの
射影行列の議論はsyntacticsおよびsemanticsの観点から強引過ぎます。

日本女子大学心理学科
岡本安晴





スレッド表示 著者別表示 日付順表示 トップページ

ここは心理学研究の基礎メーリングリストに投稿された過去の記事を掲載しているページです。