[fpr 2801] 妥当性について

村上宣寛

南風原 さんへ

一週間の能登半島、野宿、徒歩旅行から戻ってきました。いやはや、縄張り確認
作業も大変です。巨大スーパーや巨大温泉ができる一方、廃道になった山道、畑
も多く、一段と過疎化と高齢化が進んでいます。足には巨大な豆もできました。

さて、基準関連妥当性の重要性については、

赤木・池田訳「教育・心理検査法のスタンダード」図書文化、1993年に記述があ
り、私はそれに従っています。今、手元に本がないのですが、

心理検査はなんらかの外的基準との相関、もしくは回帰係数などで妥当性が証明
されていること、

心理検査の標準化集団はサンプリング手続きが明らかになっていること、

心理検査の制作者はテストの手引きだけではなく、ハンドブック、啓蒙書を執筆
すべきこと

が記載されていたと思います。MMPIとBigFiveのハンドブックはテスト制作者の
倫理コードに従って出版社と交渉し、執筆しました。疲れましたが。

経済上の事があり、出版社はハンドブックを出したがらないので、日本で市販さ
れている心理検査は、この「スタンダード」から外れるものが主流です。


> 
> [fpr 2785] Re: 項目反応理論[理論編]  で,村上さんが,以下のように
> 書いていました。
>  
> > 私は基準関連妥当性以外の妥当性を信じていません。まあ、もう
> > 歳なので、1940年代の概念で止まっていても不思議ではありませんが。
> 
> ゼミの学生に紹介されて読んだ論文(関係が逆転していますね,授業料払わね
ば・・・)
>  Borsboom, D., Mellenbergh, G. J., & Van Heerden, J.  (2004). 
>   The concept of validity.  Psychological Review, 111, 1061-1071.
> には,1940年代どころか,1920年代のKelleyの妥当性定義「テストは,それが
> 測ろうとしているものを測っていれば妥当なテストである。」に立ち返ろう
> と書かれています。
> 
> そこでは,50年前のCronbach & Meehlによる構成概念妥当性の提唱から
> Messickに引き継がれた流れが,テスト得点の解釈や利用の社会的・倫理
> 的な帰結までも妥当性概念に取り込もうとして,妥当性概念をいたずら
> に複雑化させ,一般の研究者の認識や妥当性検証の現実から乖離したも
> のにしたということを指摘しています。
> 
> しかし,基準関連妥当性の考え方については,厳しく批判しており,
> “criterion validity was truly one of the most serious mistakes 
> ever made in the theory of psychological measurement”とまで書い
> ています(p.1065)。その理由は, [fpr 2697] Re: 短縮尺度を作る  
> で書いた
> 
> > ある尺度がある外的基準とたとえば0.5の相関がある
> > とすると,その尺度のベクトルはその外的基準のベクトルと60度の角度を
> > もっていることになります。しかし,外的基準のベクトルと60度の角度を
> > もっているベクトルは無数にありますから(外的基準ベクトルを芯にして60
> > 度の角度を保ってぐるっと回転できます),それだけでは,その尺度が何を
> > 測っているのかということはほとんど分からないと言わざるを得ないでしょ
> > う。
> 
> ということと同様で,基準との相関をみるだけでは,何が測定されて
> いるのか特定することはできないから,ということのようです。(特
> 定の基準変数を予測することが目的であれば,予測力さえ高ければ有
> 用ではあります。ただ,それはテストが何を測っているかという意味
> での妥当性を示すものではないということです。)
> 
> 私が上記引用部分に続いて書いた
> 
> > 理想的には,複数の外的基準との間に,その尺度で測
> > りたい構成概念の定義内容からして,ある特定の相関パタンがあることが予
> > 測され,その予測が実際のデータで確認される,ということになればいいの
> > でしょうが。
> 

その通りです。より実際的な事柄で説明すると、例えば、何らかのしっかりした
基準で不登校児童を集めて基準群とし、同年齢の普通児童を対照群として基準関
連的方法で不登校尺度を作ったとしましょう。その尺度は残念ながら不登校児童
だけではなく、そのほかの児童群とも高い相関の可能性を持つ場合があります。
これは不登校児童を基準群として尺度構成しても、不登校を測定する尺度になっ
ていないということです。言い換えると、不登校尺度は「一般的不適応傾向」を
測定しているかもしれないからです。

この傾向を排除するには、一般的不適応児童群を新たに設定し、不登校児童群と
一般的不適応児童群に不登校尺度を実施し、差異のある項目を残して、新たに尺
度構成する必要があります。

MMPIの臨床尺度もこれと同等の傾向があり、特定の精神疾患を測定するような尺
度もありますが、Sc尺度のように、「一般不適応」を測定しているのではないか
と思われるものもあります。

ただし、アメリカのMMPI研究者の立派な点は、各臨床尺度を一度、未知の物を測
定していると仮定し、いくつかの尺度が上昇したときの精神疾患の%を調べ、臨
床的に有用な物にしました。それがプロファイルタイプ研究です。これは日本で
真似ができません。数千人規模の患者群と診断基準がしっかりした精神科医の協
力が必要です。アメリカのすごいところです。


MMPI特殊尺度の中で、面白いが真似の出来ない物に「敵意の過統制尺度」(O-H)
があります。これは、殺人などの凶悪犯、高度な凶悪犯、凶暴でない犯罪者、正
常者の4群を使い、殺人犯を弁別する項目を残して作成した尺度です。基準群と
対照群の比較という単純な方法では尺度構成に失敗することを1967年の時点で十
分に理解し、それを乗り越える工夫をしたものです。



> というのは,Cronbach以来の流れとも整合した,いわば現代的な見方であり,
> 「妥当性の収束的証拠,弁別的証拠」そして「多特性多方法行列」によって
> 相関のパタンを多角的に見ていくというものです。私も,Messickらの妥当性
規
> 定は,いろいろなものを取り込みすぎて,ちょっとついていけないと感じてい
> ますが,上記の多角的な見方は意味があると思っています。


Messickの論文はいくつか読みました。とくに翻訳されているValidityは三度ば
かり読みました。構成概念の中に基準関連的、内容的妥当性を入れ込んでしまう
ということです。もちろん、内容的妥当性と基準関連妥当性は矛盾することがあ
ります。ともかく妥当性は単一の概念であるという主張ですが、納得できません
ね。だから、私も「臨床心理アセスメントハンドブック」では三つに分けて書き
ました。

 
> しかし,上記論文では,基準関連妥当性だけでなく,こうした外部変数との相
> 関を見ていくアプローチ全体が,妥当性について周辺的な証拠を与えるにすぎ
> ないものとして批判し,“any correlational conception of validiy is
> hopeless”と書いています(p. 1067)。
>  

そんなことは分かってますよ。心理検査で因果関係を証明できるような妥当性の
根拠が示せないから、苦労しているのです。批判するのは簡単です。

さて、私が基準関連的証拠を重視するのは、MMPIとWAISの存在があります。半世
紀を生き延びてきた心理検査です。MMPIの尺度が基準関連的に出来ているのは、
かなりの人がご存知とおもいますが、WAISの検査問題も基準関連的に出来ていま
す。ハンドブックを書くときに調べて気が付きました。

Wechsler-Bellevue尺度には新規に制作された問題はなく、当時行われていた陸
軍アルファやベータで、教師評定や管理職による知能の評定で差異の見られる検
査問題を「剽窃」し、自らの知能理論に基づいてアセンブルしたものです。それ
が長寿の秘密です。

「心理尺度」は因子分析で簡単に作成するのが常識のようですが、私はWAISや
MMPIのことも頭に置きながら、何らかの基準と関連を持たせるように努力してい
ます。

因子分析で単純に作成すると、外的基準とは何も関連しないことがあります。し
たがって、因子分析にかける前に、他者評定などのデータで項目をまず選択しま
す。この手続きで作ったのがBigFiveです。また、一度、fprに出しました「問題
攻撃性尺度」です(パーソナリティ研究、13巻2号)に載ったところです)。

珍しく私にゼミ生が一人付きましたが、彼女の研究テーマが児童のパーソナリテ
ィと攻撃性ということで、私がリモコン操縦することにし、BigFiveに基づく児
童の教師評定のデータと児童の自己評定のデータを1000名程度とりました。分析
はこれからゆっくりやりますが、教師評定と相関を持つ項目を残しつつ、因子分
析をするとBigFive構造が得られるか、否かは、分かりません。しかし、せっか
く研究をするのなら「気合い」を入れてやりたいですから。

最近の院生は博士号が必要らしく、数稼ぎの論文が目立ちます。だから基準関連
的尺度構成はまずありません。基準群を設定するためにはかなりの大規模研究が
必要だからです。しかし、骨太の、生き延びる研究のためには、基準関連的尺度
構成は必要であると確信しています。


-----


村上宣寛 


(勤務先)
〒930-8555 富山市五福3190
富山大学教育学部学校心理学
TEL 076-445-6367
E-mail: murakami (at) edu.toyama-u.ac.jp
HomePage:http://psycho01.edu.toyama-u.ac.jp/




スレッド表示 著者別表示 日付順表示 トップページ

ここは心理学研究の基礎メーリングリストに投稿された過去の記事を掲載しているページです。