[fpr 2875] 矢印と因果関係

南風原朝和

fprの皆様

南風原@東大教育心理です。

Yasuharu Okamoto さんからの引用:

>  回帰式あるいは矢印の方向性の因果的意味づけの問題、
> (結果、原因)の分布の特徴(そのようなものが存在するとして)の問題、
> パス図を眺めされられることの多くなったこの時期、ちょっと気になりました。

おっしゃるように,「矢印の意味」というのは,きちんと考えておきたい
ですね。

SEMのソフトウェアを実行する段階では,岡本さんも

>  パス図における矢印は回帰モデルを図示したものです

と書いておられるように,「パス図における矢印は,収集された多変量デ
ータの間の相関関係を説明するための回帰式を表現している」というのが,
過不足のない表現かと思います。

それに対し,データを収集する前の「モデリング」の段階では,矢印に,
上記の意味を超えてさまざまな意味づけをしているのが普通だと思います。
たとえば,
 ・○○が△△を引き起こす。
 ・○○の変化が△△の変化を引き起こす。
 ・○○によって△△が説明できる。
などです。ひとつのモデルの中で,矢印ごとにそうした意味づけが異なっ
ているケースもあるでしょう。このような意味づけは,結果の解釈の段階
でも再びなされます。

私は,結果の解釈の妥当性を高めるためには,
 ・モデリングの段階では,矢印ごとの意味づけを曖昧にせず,
  できるだけ明確に表現すること
 ・そのうえで,実際に収集したデータ(あるいは収集しようと
  計画しているデータ)によって,自分が矢印に付与した意味
  づけが可能になるかどうかを批判的に検討すること
が必要だと考えています。もちろん,矢印に付与した意味づけを可能にす
るデータ収集が常に可能だとは限りませんが,検討してその限界を見極め
ておくことが,結果の解釈の妥当性を高めるのに有用だろうということで
す。

最近,授業で「第三の変数」の話をするとき,以下のような例題を出した
りしていますが,その中の(3)の部分が,上記の話と関係します。

(1)一般の会社や役所などで,「パソコン関係の知識量」と
   「給与」の間にはどのような関係があると考えられるか。
(2)その関係を説明する「第三の変数」として,どのような
   ものが考えられるか。
(3)その「第三の変数」からそれぞれの変数へのパスは,
   どのように解釈することができるか。

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南風原朝和  haebara (at) p.u-tokyo.ac.jp


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