[fpr 2890] 心理学科・統計学のテキスト

南風原朝和

fprの皆様:

南風原@東大教育心理です。

Takashi TSUZUKI さんからの引用:

> 来年から,心理学科の1年生に統計学を教えることになりましたので,
> 評判の良い統計学のテキストについてお尋ねすることにしました.


一般に,どのテキストが最適かは,

 ・どこまで広く,どこまで深い学習を目指すのか。
 ・何コマ使って授業するのか。
 ・1冊のテキストで完結させるのか。
 ・教師の指導力は?
 ・学生の資質は?

など,さまざまな要因によって答えが違ってきますよね。

実際に統計の講義を担当した経験のある方々から,「上記の要因がこれこれ
であれば,この本を」といった具体的なアドバイスが,いろいろと提供され
ればと思いますが,心理統計学を専攻している立場からは,「基本概念の説
明に誤りがないものを選んでほしい」という気持ちがあります。たとえば,
    「5%水準で有意」=「帰無仮説が正しい確率は5%以下」
というような誤った記述が後を絶たないのは,残念なことです。

最近出版された以下の2冊は,著者の統計理解について私が直接的に知って
いることを根拠にすれば,(たぶん)そうした誤りが(少)ないものだと思
います。

(1)『よくわかる心理統計』(山田剛史・村井潤一郎,2004,ミネルヴァ
書房)
(2)『統計分析のここが知りたい−−保健・看護・心理・教育系研究のま
とめ方』(石井秀宗,2005,文光堂)

(1)の「はじめに」には「統計の重要概念の説明を省略するのではなく,
ここぞとばかりに一生懸命に説明しています。統計の基本的原理について正
しい理解をしてもらいたいという気持ちがあるからです。」とあります。ま
た,エピローグでは,初等統計のテキストとしてよく読まれている『本当に
わかりやすいすごく大切なことが書いてあるごく初歩の統計の本』(吉田寿
夫,1998,北大路書房)と本書との違いが述べられているので,そのうちの
どちらを選ぶか迷う人には参考になるでしょう。

(2)の「まえがき」には,「「統計的に有意である」とはどういうことか
について詳しく解説しています。」,「研究に必要な姿勢や,研究計画書の
作成などについて解説しています。」などとあります。カバーする領域は
(1)よりだいぶ広く,構成や執筆スタイルも特徴的なものとなっていま
す。

以上,「基本概念の正しい理解を」というひとつの観点から,思いついた本
を2冊,私の身近なところからサンプルしてみました。

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南風原朝和  haebara (at) p.u-tokyo.ac.jp


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