岡本@日本女子大学です。 統計の教科書の選択において、なぜ統計学的手法が心理学で必要なのか という観点が重要なポイントの1つになるように思います。私が最近気になっている 考え方の違いの1つは、統計学的分析の目的ですが、これは情報量基準の 解説を行っている次の2書を比べるとそれぞれの観点がはっきりするように 思います。 1.北川源四郎・小西貞則、「情報量基準」、朝倉書店、2004. 2.K.P.Burnham & D.R.Anderson. Model selection and multimodel inference: A practical information-theoretic approach, 2nd ed. Springer, 2002. 1.は統計学者、2.は生物学者が著者のようです。このためでしょうか、 1.では、統計学的分析では真のモデルは意味がない、データの記述が第1の 目的であるというような考え方が書かれています。 2.では、真のモデルが想定されています。ただ、これは知ることができない ものであるし、生物学という複雑な対象では真のモデルは非現実的に複雑に なるので、適切な近似モデルを探すというような考え方が書かれています。 統計学的分析が真のモデルを求めるものではない、データの効率的な 記述が目的であるという考え方は、では心理学的真理の探究には 統計学は無関心なのかという疑問が湧いてきます。それに対して、 真のモデルは想定しているが、現実的な研究方法として意味のある 近似モデルを求めるという立場の場合は、心理学的真理は何かという問を 求めるとき統計学的アプローチは役に立つだろうという期待をもつことが できます。 学生が読む本として、著者がどのような立場で統計の解説書を書いているか 授業の担当者の立場はどうであるか、この関係に注意することも学生が 混乱しないためには必要であると感じています。 ついでですが、第3の立場として、統計学がなぜ心理学に必要かという問に 対する答えとして、「論文の審査に通るため」というのがあるようです。この場合は 審査者の考え方に対応した解説書ということになるのでしょうが、現実には この立場の場合が少なからずあるように感じています。 日本女子大学心理学科 岡本安晴
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