[fpr 3100] 追試に許可はいらない

SHIBAYAMA Tadashi

 柴山@新潟大学です。

 せっかく議論が収束に向かっているのに蒸し返すようですが、
豊田さんが提起した問題は教育心理学会だけに限らず研究活
動全般にとって重要な事柄を含んでいると思いますので意見さ
せて下さい。

 まず、研究者倫理としては当たり前のことですが、先行研究の
オリジナリティを尊重することはどなたも異論はないと思います。

 ところが心理学的研究手段として質問紙法を採用した場合、
「構成概念」をいかに定義するかで、「似たような」「同じような」内
容の質問紙を作成することが可能になります(=fprのみなさま
にはいうまでもないことです)。盗作・剽窃は論外として、実際問
題として、構成概念の表現は異なりますが、内容的には「似たよ
うな」「同じような」質問紙をどう識別するかということは常に悩み
の種になります。その識別の難しさは少し前に話題になった
「ゲド戦記」の挿入歌が萩原朔太郎の「こころ」と似ているのでは
ないかと言う荒川洋治の指摘と相通ずるものがあります。(興味
のある方は「諸君!」2006年11月号170−171頁をご覧下さ
い)。

 それを識別する一つのガイドラインとして豊田さんのメールにあ
る4つのポイント(抜粋の際、柴山が少し手を加えました>豊田さん):

>(1)単一の項目表現はだれの許可もなく使用してよい.必要ならば先行研究
>   の表現をそっくり真似ることこそが推奨される.
>(2)項目表現の一部のあつまりも許可もなく使用してよい。しかし一部を真似
   るならば,その部分は,正確に引用して,そっくり真似ることが推奨さ
   れる.許可 を得る必要はない.
>(3)意匠やデザインや統計量を伴わない項目表現全部に関しては学会のコン
>    センサスが得られていない.覚悟のない人は,尺度全体を無許可では使用
>     しないこと.引用はすること.
>(4)意匠・デザイン・尺度化の数値に関しては,使用料を伴う著作権が発生
>  するから引用だけでなく,許可が必要である.市販されているならそれを
>  購入して使用する.

は、大変良くできていると思います。

 以上のことを踏まえて、そもそもこの議論の発端になった教育
心理学誌のチェックリストは研究者の倫理規定くらいにとらえて
おくのが良いのではないでしょうか。

 要するに、投稿する方は先行研究のオリジナリティを尊重し、
査読者は査読者の知る範囲でそれが守られているかどうかを
責任をもって査読し、その論文をよむ研究者は万が一不審な点
に気がつけばそれをきちんと指摘していく、そういう大きなループ
の中で考えればいいのではないでしょうか。

なお、本件柴山個人の見解です。


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