[fpr 3179] SEM「理論編」

豊田秀樹

豊田秀樹@早稲田大学です

ちょうど10年前に朝倉書店さんから共分散構造分析に関する「入門編」「応用編」「理論編」という3冊の本を単著で公刊することを計画しました.また「応用編」まで書いた段階で著者の想像を
超える反響をいただき,続きの内容を早急に公刊する必要に迫られ,「編」のかたちで「技術編」「疑問編」という書物を公刊しました.ただ,その後,自らが忙しくなったこともあり「理論編」
執筆は半ばあきらめていました.しかしサバティカルを利用してこのたび

共分散構造分析「理論編」-構造方程式モデリング- 朝倉書店 ISBN978-4-254-12696-9

という書物を公刊することができました.これもみな「入門編」「応用編」の読者の方のお陰です.内容は以下の「まえがき」につきます.もし興味をもっていただけたなら書店等で立ち読みでも
していただけたら幸いです.

ーーーーーーーまえがき 引用 ここから
本書では,構造方程式モデリング(SEM, Structural Equation Modeling)と呼ばれる統計モデルの高次積率構造の理論と,その適用法を論じる.本書[理論編]は,[入門編],[応用編]に続く3部作の
締め括りである.
端からで,しかも読者を試すようで恐縮であるが,飽くまでも戯言ということにして,多変量解析に関する以下の質問に,まず「はい」か「いいえ」で答えていただけまいか.

\begin{enumerate}
\item 単回帰分析で,一方の変数$x$から他方の変数$y$への標準偏回帰係数と,逆向きの$y$から$x$への標準偏回帰係数は,常に値が同じである.

\item 変数$x$から変数$y$への単回帰式と,その逆向きの単回帰式では,共に飽和モデルであるから,どちらがよりデータに当てはまっているかを比較することができない.その意味で,データに
よって矢印の方向は決められない.

\item 探索的因子分析で,初期解と回転解(単純構造を目指した解)では統計学的に良さを比較することはできない.言い換えるならば因子分析の共通因子空間は回転してもモデルとデータの適合
度は変わらない.

\item 通常の探索的因子分析では,2つの観測変数から2つの因子は抽出できない.2つの因子どころか,観測変数が2つしかない場合には,そもそも因子を抽出できない.また因子分析では,常に因
子数は観測変数の数より少ない.

\item パス解析(同時方程式)では,可能なパスを全部引いたなら識別不定になってしまう.例えば3つの変数に対して可能な全部のパス12本を引いたら,解は定まらない.それどころか全ては引か
ずとも双方向モデルは,道具的変数がないと,識別不定になる.
その意味で変数に対する事前知識は必須である.

\item 3変数のパスモデルで,$x→y→z$と$z→y→x$では,データを取る前から適合度が等しいことが分かっている.言い換えるならば2つのモデル$x→y→z$と$z→y→x$はデータによって適合の比
較をすることが不可能である.

\item データを取る前から適合度が等しいことが分かっているモデルを互いに同値なモデルといい,モデル探索ではしばしば同値モデルに遭遇し,データだけでは候補に挙がったパスの比較ができ
なくなることが少なくない.

\item 構造方程式モデリングは変数に正規分布を仮定するので,たとえば分布が大きく歪んでいるデータへの適用は適切でない.
\end{enumerate}

「はい」は幾つあっただろうか? 多変量解析を学んだ経験のある読者の方は,きっと「正答は全て『はい』である」と思われただろう.従来の多変量解析・共分散構造分析の観点からは,その通
りである.正答は全て「はい」である,否,「はい」であった.しかし高次積率を構造化してモデリングを行うと,実は正答は全て「いいえ」となる.端的に言うならば,そのことを示すことが本
書の目的である.
ーーーーーーーまえがき 引用 ここまで

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 TOYODA Hideki Ph.D.,  Professor,                    Department of Psychology
 TEL +81-3-5286-3567  School of Letters, Arts and Sciences, Waseda University
 toyoda _atmark_ waseda.jp   1-24-1 Toyama Shinjyuku-ku, Tokyo 162-8644 Japan
 http://www.waseda.jp/sem-toyoda-lab/
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