[fpr 3364] 統計分析の多重性

村上宣寛

統計分析の多重性

春は入試が複数回あって落ち着かないのですが、卒論も終わり、少しはほっとしました。しかし、学生の分析をみていると、こんなことで大丈夫かなと心配になりました。まあ、こちらも統計の専門家でもないので、確信をもっていえないのが難点ですが。

一つのデータに対して重回帰分析を適用し、その後、上位群と下位群に分割して分散分析を行うという手法も根強く行われています。似たような結果が出るのは当たり前だし、重回帰の結果から分散分析の結果くらい予測できるのだから不要な分析だと大昔から批判してきました。しかし、一向に変化の兆しはありません。そもそも先生方にそのような認識が無いようです。

私の批判も少し決め手を欠いていましたが、検定の多重性を考えると、やっぱり、このやり方は間違いではないかと思います。

今、一つのデータに対して二つの統計法を適用するとします。たとえば、重回帰分析と分散分析としましょう。重回帰では重相関係数の有意性検定、分散分析では主効果や交互作用の有意性検定が含まれます。二つの統計手法には異なる有意性判定手続きが含まれていますので、異なる二つの検定法を一つのデータに適用することになります。すると、検定の多重性の問題にぶつかります。

単純化して帰無仮説を二つとすると(組み合わせを考えると、もっとたくさんあるのでしょうが)、一つの仮説が棄却されない確率を0.95とすると、2個の仮説が共に棄却されない確率は、仮説が互いに完全に独立だとすると、0.95×0.95=0.903です。そうすると、9.7%になってしまいます。重回帰と分散分析を共に実行して、どこかに有意性があったと5%水準で判断すると、9.7%の有意水準で判断することになるのではないですか。もし、そうなら、このやり方は完全な間違いです。

それに、多重比較の専門書には、(永田靖・吉田道弘 「統計的多重比較法の基礎」(サイエンティスト社、1997年)には分散分析と共に用いて許されるのはシェフェの方法だけ(有意性の計算手続きが共通なので矛盾を生じない)なのに、他の方法を使う人が目立ちますね。分散分析と矛盾する結果が出るので、第一種の過誤の確率が大きくなり、論理的には許されないと書いてあります。最近の教科書はどうなっているのでしょうか。教員の意識レベルが変わらないと学生の卒論も変わりませんからね。


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