村上さん,fprの皆様 psycho01 (at) edu.u-toyama.ac.jp さんからの引用: > 一つのデータに対して重回帰分析を適用し、その後、上位群と下位群に 分割して分散分析を行うという手法も根強く行われています。似たような 結果が出るのは当たり前だし、重回帰の結果から分散分析の結果くらい予 測できるのだから不要な分析だと大昔から批判してきました。しかし、一 向に変化の兆しはありません。そもそも先生方にそのような認識が無いよ うです。 > > 私の批判も少し決め手を欠いていましたが、検定の多重性を考えると、 やっぱり、このやり方は間違いではないかと思います。 私もよく見かけます。たとえば,xが大きいほどyも大きいか をみるとき,相関の検定をして,さらにxで2群に分けてyに ついてt検定をするような分析です。これは,検定の多重性の 問題というよりも,相関の検定で用が済んでいるはずのものを, xに関する分割の任意性(どこで2群に分けるかという問題) と,検定力の低下(連続的な量をカテゴライズすることによる 情報のロス)という問題をわざわざもちこんで検定しているこ とに問題があると思います。 > それに、多重比較の専門書には、(永田靖・吉田道弘 「統計的多重比較 法の基礎」(サイエンティスト社、1997年)には分散分析と共に用いて許さ れるのはシェフェの方法だけ(有意性の計算手続きが共通なので矛盾を生じ ない)なのに、他の方法を使う人が目立ちますね。分散分析と矛盾する結果 が出るので、第一種の過誤の確率が大きくなり、論理的には許されないと 書いてあります。最近の教科書はどうなっているのでしょうか。教員の意 識レベルが変わらないと学生の卒論も変わりませんからね。 上記の本がいま手元にないので参照できないのですが,「矛盾 が生じない」というのは,全体としてのF検定が有意であれば, Scheffeの方法でも,少なくとも1つ有意な対比が得られ,全体 としてのF検定が有意でなければ,Scheffeの方法でも有意な対 比は得られない,という性質を指していると思います。 私の『心理統計学の基礎』では,代表的な方法としてTukeyの方 法を紹介していますが,この方法は上記の意味での無矛盾性は もっていません。つまり,全体としてのF検定では有意なのに, Tukeyの方法では1つも有意な対が得られないとか,逆に全体と してのF検定では有意でないのに,Tukeyの方法では有意な対が 存在する,ということが起こり得ます。 しかし,Tukeyの方法を事後検定として,すなわち全体としての F検定が有意であったときにのみ使うとすれば,F検定で有意 でなければそれで終わりですから,検定の多重性による第1種 の誤りの確率の増大という問題は起きません。 一方,Scheffeの検定は,F検定と無矛盾というのはよいのです が,原論文(1953年)のタイトル“A method for judging all contrasts in the analysis of variance”が示すように,対比 較(2つの群の平均の比較)に限らず,あらゆる対比(たとえ ば,最初の2つの群の平均と残りの1つの群の平均の比較など) に対応する方法であり,その分,対比較に限定するとTukeyの方 法に比べ,検定力が低くなります。したがって,事後検定とし て対比較がなされることが多い現状では,Scheffeの方法は推奨 しにくい,ということになります。 ちなみにTukeyの方法の原論文も1953年ですが,unpublished manuscriptです。統計では,最も影響力のある未公刊論文の1 つでしょう。 ---- 南風原朝和 haebara (at) p.u-tokyo.ac.jp
ここは心理学研究の基礎メーリングリストに投稿された過去の記事を掲載しているページです。