中部大学の小塩です。 学生さんが平均値±SD基準を用いたということについては, もしかすると拙著や拙webサイトの影響もあるかもしれない と思い(ないかもしれませんが),コメントさせていただこう と思います。 平均値とSD基準はあくまでもひとつの基準であり,得点分布 とその項目内容をチェックした上で天井効果・床効果を判断 すべきだと考えています。査読の際にも,明らかに機械的に 項目を削っている尺度構成の論文にはその点をコメントする ようにしてきました。 たとえば経験上,5件法で平均が中央に来るにもかかわらず, 標準偏差が非常に大きな項目というのは,「Yes-No」で答え るべき項目内容になっていることが多いように見受けられます。 過去に学生が作った例では,「毎日鏡を携帯する」というものが ありました。毎日持つ者は持ち,持たない者は持ちません。 このような項目の場合には,中央付近の回答がほとんどなく, 1と5に偏ります。平均とSD基準で引っかかってくる可能性が 高いのですが,分布を描いて項目内容を見て,「確かに」と 感じることが多くあります。 逆にこの基準ですと,南風原先生のおっしゃるように,標準偏差が 非常に小さく弁別力の少ない質問項目が引っかかってこない問題 があると私も思います。 いずれにしましても,「本調査を行う前に10人でも20人でも予備 調査をして分布をチェックせよ」ということを,ここ数年は学生 にもよく言うようにしています。 本題からズレてしまったかもしれませんが,少しだけ考えたことを 書かせていただきました。失礼いたします。 On 2010/06/05, at 12:49, 南風原朝和 wrote: > fprの皆様 > > 片所さんのコメント,ありがとうございます。 > > もう少し続きを書いてみたいと思います。 > 簡単のために天井効果に絞ることにします。 > > 学生から聞いた方法,すなわち,(1〜5 の5段階評定尺度であれば) > > 平均+SD > 5 > > ならば天井効果ありとして,(これまた学生によれば)その項目は削除する > という方法は,上式より,「平均または標準偏差が大きい項目は削る」 > ということになります。 > > 実は,前回お示ししたデータは,x1〜x4 のいずれも,平均+SD が等しく > なるようにしたものです(ここでの SD は,分散の分母をnとしたもの)。 > 平均等の値を加え,再掲します。 > > --------------------------- > x1 x2 x3 x4 > -------------------------- > 1 2 3 4 > 1 2 3 4 > 1 2 3 4 > 1 2 3 4 > 1 2 3 4 > 5 5 5 5 > 5 5 5 5 > 5 5 5 5 > 5 5 5 5 > 5 5 5 5 > --------------------------- > 平均 3 3.5 4 4.5 > SD 2 1.5 1 0.5 > 平均+SD 5 5 5 5 > --------------------------- > > このように,平均+SD によって天井効果を判定する方法は,平均が尺度 > の右端に偏った場合だけでなく,尺度のちょうど真ん中にあるときも, > 標準偏差が大きければ天井効果と判定する,ということになります。 > > また,「平均または標準偏差が大きい項目は削る」ということは,平均が > 等しい項目については,標準偏差の大きい項目,すなわち個人差が明確に > 表れている項目から順に削っていき,標準偏差の小さい項目,すなわち > 差がつかない項目は残す,ということになります。 > > 今度その学生が来たら,この最後の段落,どう思う? と聞いてみます。 > > ---- > 南風原朝和 haebara (at) p.u-tokyo.ac.jp > ========================================== OSHIO, Atsushi, Ph.D Associate Professor, Department of Psychology, Chubu University E-mail: aoshio (at) isc.chubu.ac.jp URL: http://psy.isc.chubu.ac.jp/~oshiolab/
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