[fpr 3396] 天井効果と床効果

南風原朝和

fprの皆様

村上さんから:

> 南風原さんのデータを自作のプログラムで処理してみました。変なデータですね。
> 歪度も尖度も同じです。

あの4つの分布は,「平均±SD」の値が同じになり,平均が異なるパターンを,
と考えて作った分布です。形の上では,どれも同じ高さの棒が2本立っている
グラフになっていますので,横軸の目盛に関係なく分布の形だけで決まる歪度
と尖度は,いずれも同じ値になります。

> そもそも天井効果や床効果があることをどうして証明するのですか。

天井効果,床効果は,基本的には測定に関する事柄で,対象とする集団に対し,
見たい個人差が十分に見られているか,それとも全体として問題が難しすぎた
り易しすぎたりして,分布の端のほうにかたまりができてしまって,個人差の
識別に失敗しているか,ということだと理解しています。大学入試などでは,
ときどき話題になることです。

尺度全体でなく,項目レベルで考える場合も,基本的には測定の適切さに関す
る問題ととらえるべきだろうと思います。統計分析のための分布上の仮定を
満たしているかどうかは別の問題だということです。たとえば,評定尺度型の
項目についていえば,以下のような例が考えられます。

 項目1:1週間に何日ぐらい,お酒を飲みますか。
       1. 0日
       2. 1〜2日ぐらい
       3. 3〜4日ぐらい 
       4. 5〜6日ぐらい
       5. 7日

 項目2:1日に何歩ぐらい,歩いていますか。
       1. 1000歩未満
       2. 1000〜2000歩
       3. 2000〜3000歩
       4. 3000〜4000歩
       5. 4000歩以上

対象者集団によっては,どの項目も,端(1または5)にある程度の集中が
みられる可能性があります。論文によっては,端への集中がある割合を超えた
ら天井効果または床効果があったとしているものもあるようですが,それは
天井効果や床効果の必要条件のチェックとしてなら意味があるかと思います。

ただ,端への集中がある割合を超えたとしても,項目1については,これは
測定の問題とは言えないでしょう。その内容について問う必要があるとした
ら,選択肢の幅をこれ以上広げることはできませんから,端に集中があった
らあったで,こういう実態がわかった,ということだと思います。天井が
低すぎたとか床が高すぎたということにはなりません。

一方,項目2については,ある対象者集団で5に集中がみられたとしたら,
これは,天井が低すぎて,その集団において歩数の個人差を十分にとらえる
ことに失敗し,天井効果を生じてしまった,ということになると思います。

いずれにしても,「平均±SD」を求めるとか,その値を1や5と比べるとか,
ましてやそれによって分析に先立って項目を削除するという話は,この流れ
からは出てこないように思います。


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南風原朝和  haebara (at) p.u-tokyo.ac.jp


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