皆様 小塩さんが問題点を整理してくださり,村上さんからもコメントがあり ましたが,まずは,以下の区別を明確にしたうえで議論しなければなら ないのではないか,と思います。 ・区別1:項目分析 ≠ 天井効果・床効果の検討 ・区別2:回答の分布の歪み(端への集中) ≠ 天井効果・床効果 ・区別3:因子分析の対象としてよいか ≠ 尺度に含めてよいか ・区別4:正規分布を前提とした因子分析の対象としてよいか ≠ 正規分布を前提としない因子分析の対象としてよいか 小塩さんの『研究事例で学ぶSPSSとAMOSによる心理・調査データ解析』 (以下,「研究事例」と略)も拝見しましたので,以下,参照していき たいと思います。 まず区別1についてですが,「研究事例」を読むと,項目分析とは天井 効果・床効果を検討することであるかのような印象を受けますが,項目 分析は,最終的に項目を尺度に含めるかどうか,どのような修正が必要 かなどを多角的に検討する手続きだと理解してます。したがって,探索 的な因子分析も含め,あれこれ検討しながら進めるものだと思います。 次に区別2についてですが,小塩さんの以下の文を読むと,この区別に ついて,どのように考えておられるのかが,ちょっとはっきりしません でした。 > 1.因子分析の前段階としての天井効果・床効果 > 因子分析という分析手法を行う前提条件としては,あえて天井効果や床効果 > がみられる項目を削除する必要はない,という認識でよろしいでしょうか。 > 私自身の経験上も,得点分布が偏っているからといって,因子分析そのもの > ができなくなるようなことはありません。むしろ因子分析によって,意味的 > に極端なものがまとまり,因子分析後にまとめられた質問項目群の得点が偏った > ものになる,という経験はあります。 前段では「天井効果・床効果」とあり,後段では「分布の偏り」となっ ています。両者を同じもののように扱っている感じがしますが,このあ たり,どうなのでしょうか。 > 2-3.尺度構成の前段階としての天井効果・床効果(2) > そもそも分布の偏りを問題とするのは心理的な構成概念を量的に把握しよう > とする場合のことです。心理的な構成概念であれば,ある程度質問上の > (偏らない)工夫は可能になると考えられるからです。 > 行動評定や印象評定のような場合には回答が偏ることも十分に想定できます。 > したがって,天井効果・床効果を認めない・認めるという問題は,測定しよ > うとしている概念(行動・頻度)が何であるかに規定される問題である,と > いう認識で良いでしょうか。 ここは,前段で「分布の偏り」,後段で「天井効果・床効果」となって います。また,「天井効果・床効果を認めない・認める」ということの 意味が,ちょっとはっきりしません。「天井効果・床効果であると認め るかどうかは,測定しようとしている概念によって異なる」ならわかり ますが,「天井効果・床効果がある場合に,それを容認するかどうかは, 測定している概念によって異なる」という意味だとしたら,やはり 「分布の偏り」と同一視しているような感じがします。 「研究事例」では,「清潔志向性尺度」の候補項目として「友達同士で 回し飲みするのを不快に感じる」が「1:まったく当てはまらない」の ほうに偏って,「フロア効果が見られた」としていますが,たとえばこ の項目の場合,測定しようとしている概念に照らして,どう考えるとい うことなのでしょうか。 > 3.平均値±SDを天井効果・床効果の指標とすることが可能か > これまでの議論からしますと,これは「できない」もしくは「困難である」 > ということになりますでしょうか。この点につきましては,私自身もある範 > 囲では可能ではないか(少なくとも分布をチェックする前段階としては可能 > ではないか)と思い込んでいた部分がございますので,認識を改める必要が > あると感じております。 ここでも,「分布の偏り」とは違う意味で「天井効果・床効果」とおっ しゃっているかどうかが,はっきりしませんでした。 とりあえずは,区別2について,共通理解を得てから先に進みたいと思 います。 なお,「平均値±SDを天井効果・床効果の指標とする」ことについては, 天井効果・床効果の意味(心理的連続量が外側から押し縮められて端の カテゴリに集中している)からするとSDが小さくなるのが特徴なので, SDが大きいほど天井効果・床効果ありとするのは,矛盾していると思い ますし,ルーチン的な使用が弊害を生んでいるように見受けられますの で,この指標の使用は止めるほうが良いと思います。 一応,区別3,区別4についても簡単に書いておきます。 区別3については,ある理由から因子分析には含めないけど,他の項目 との相関や因子分析の結果から得られた暫定的な下位尺度との相関など をふまえ,尺度には入れる,ということも十分あります。 区別4については,分布の偏りの影響度が違ってきますので,区別して おくほうがよいと思います。 ---- 南風原朝和 haebara (at) p.u-tokyo.ac.jp
ここは心理学研究の基礎メーリングリストに投稿された過去の記事を掲載しているページです。