[fpr 3400] 天井効果と床効果

小塩真司

皆様

村上先生,南風原先生,ご教示ありがとうございます。
自分自身がどこを混同しているかが分かってきました。

> 
> ・区別1:項目分析 ≠ 天井効果・床効果の検討
> 
> ・区別2:回答の分布の歪み(端への集中) ≠ 天井効果・床効果
> 
> ・区別3:因子分析の対象としてよいか ≠ 尺度に含めてよいか
> 
> ・区別4:正規分布を前提とした因子分析の対象としてよいか ≠ 
>      正規分布を前提としない因子分析の対象としてよいか
> 

「区別1」につきましては,私自身も同じように考えております(拙
著については後ほど書かせていただきます)。
「区別3」「区別4」につきましても,理解できていると思います。

南風原先生の区別のリストにおける区別2の部分が,不十分な理解の
原因であると認識いたしました。以前の南風原先生のメールにありま
した内容,

On 2010/06/07, at 7:32, 南風原朝和 wrote:
> 天井効果,床効果は,基本的には測定に関する事柄で,対象とする集団に対し,
> 見たい個人差が十分に見られているか,それとも全体として問題が難しすぎた
> り易しすぎたりして,分布の端のほうにかたまりができてしまって,個人差の
> 識別に失敗しているか,ということだと理解しています。

の部分を再度拝読いたしますと,天井効果・床効果は測定がうまくいっ
ているかどうかを表すものであり,得点の偏り自体はそれ以外の要因
によっても(そもそも偏っている,それ以上測定しようがない等)生じ
うるものであるため,同じではないと理解いたしました。

この点が理解できたように思いますので,以下のご指摘も納得できました。

On 2010/06/07, at 21:55, 南風原朝和 wrote:
> 意味が,ちょっとはっきりしません。「天井効果・床効果であると認め
> るかどうかは,測定しようとしている概念によって異なる」ならわかり
> ますが,「天井効果・床効果がある場合に,それを容認するかどうかは,
> 測定している概念によって異なる」という意味だとしたら,やはり
> 「分布の偏り」と同一視しているような感じがします。


そもそもその偏りが天井効果・床効果であるかどうかは,何を測定して
何を許容するかによって異なる。したがって,単に偏っているだけでは
天井効果・床効果とは言えないと理解いたしました。

この点が理解できただけで,前回のメールについて自己解決してしまっ
た感がございます…(「ここから先に」と仰っていただいているにもかかわ
らず,話が膨らまずに申し訳ありません)。
多くの観点を総合的に考えた上で「ケース・バイ・ケース」としか言いよう
がありません。少数の基準に固執することの方が弊害が大きいと思いました。
従いまして,

> なお,「平均値±SDを天井効果・床効果の指標とする」ことについては,
> 天井効果・床効果の意味(心理的連続量が外側から押し縮められて端の
> カテゴリに集中している)からするとSDが小さくなるのが特徴なので,
> SDが大きいほど天井効果・床効果ありとするのは,矛盾していると思い
> ますし,ルーチン的な使用が弊害を生んでいるように見受けられますの
> で,この指標の使用は止めるほうが良いと思います。


このご指摘につきましても,もっともだと思いました。

以下は本題とは脱線したような内容となりますが,拙著に関しての
ことです…。

拙著も取り上げていただき,ありがとうございました。『研究事例〜』
は,学部の調査系の卒論レベルを引き上げること,一通り最低限この
くらいは書けるようにということ,一連の流れを練習することで分析
相互の関係を理解するきっかけとなることを目的としておりましたの
で,紋切り型の分析や不十分な検討が多々ある点は認識しております
…というのが言い訳です。

早くもこの本が出てから5年が経とうとしております。この間,次第
に多くの査読をする立場となり,尺度構成で分析前に項目を多く削る
投稿論文を目にする機会もあり,自分が書いたことと照らしあわせて
まずいな…と思うこともございました。そこで前々回のメールに書き
ましたように,多くの項目を機械的に削除している論文を査読したと
きにはできるだけコメントするようにしていたという次第です。

さらに最近は,心理学以外の周辺領域の方から「えっ?」と思うよう
なこだわり(私からすると極端で柔軟さに欠けた考え)を聞く機会も
あり,話が広がる過程で枝葉が切り落とされていくさまを実感してお
りました。

一連の分析のマニュアル化は学部学生の取っかかりとしては悪くない
と思いますし,一定の成果はあると思うのですが,実際の分析には考
えるべき観点が多々あり,そのマニュアルの段階に留まることの弊害
は重々承知しております。そのようなことから,データについてあれ
これ考えるきっかけになればと,続きの『実践形式で学ぶ〜』を書い
たわけですが,皆さんにお読みいただけるわけでもありません。

さらにいえば,尺度構成における得点の偏り・天井効果・床効果の扱
い方は自分自身でも気になっていた点でした。そのようなことを感じ
ておりましたので,今回の南風原先生の投稿は「とうとうその時が来
たか」と思った次第です。

拙著にある尺度構成の分析手順に関しましては,もうすぐ大きな改訂
の機会があると思いますので,より良いものにしていこうと考えてお
ります。

今回は思い切ってご指導を仰いで本当に良い学びの機会となっており
ます。感謝申し上げます。
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OSHIO, Atsushi, Ph.D
Associate Professor,
Department of Psychology, 
Chubu University
E-mail: aoshio (at) isc.chubu.ac.jp
URL:    http://psy.isc.chubu.ac.jp/~oshiolab/



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