[fpr 3553] 心理学と統計学:目的と道具

岡本安晴


 岡本@日本女子大学心理学科です。

 統計の方とメールのやり取りをしていて、以下のことを
書きたくなりました。

 統計学、あるいは一部の実質科学の文献を読んでいると
科学とは近似である、研究はゲームである
というようなことが書かれているのに遭遇することがあります。
これは、実質科学の現場とは合わない考え方であると思います。
少なくとも、近似とかゲームとかという考え方とは馴染まない
人たちもいると思います。
 例えば、最近ではヨーロッパにある素粒子の実験施設で
出された分析結果についてマスコミも騒がしくなりました。
もし、物理学が近似を目的とするものであれば、観測結果の
確率が99.???%以上でないとだめという発想は出てこないと
思います。真理を求めるからこそ、これこれが真理だと
この結果の確率はこうなるという発想になると思います。
近似なら、単に近似の精度を情報として付けておけば済むことです。
 科学が近似であるとするならば、物理学は、十分に実用上の
近似は達成できていると思います。しかし、真理を探求したいと
いう気持ちがあるからこそ、素粒子の研究がすすめられ、宇宙についての
理論が探求されるのだと思います。
 科学が真理を探求するものであれば、真理を表現するものが理論と
いうことになります。データは真理を探求するための手段、そして
データから情報を引き出す技術・道具としての統計学という
位置づけになります。
 もちろん、統計学者にとっては統計学は目的ですし、
心理学を利用する人たちにとっては、心理学的真理よりは
ある意味で現実を(近似的)に反映する情報が有益だと
いうことになります。心理学のなかに、心理学を目的とする、
心理学的真理を探究する研究者と、それが利用できればよい
とする実践家が混在すると、ある意味で混乱のもとになると
思います。心理学を科学的心理学的真理を探究するものとして
位置付けるか、心理学を1つの情報源として利用するのか、
人により立場は異なりますが、しかし、この区別は意識される
べきであると思います。

横浜市在住
岡本 安晴



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